五感で楽しむ高校野球~視覚障害者の私と甲子園観戦へ~

講師の原口です。
今回は私と仲の良い小学生2人(東灘小学校少年団野球部5年生の家城悠我(いえきゆうが)くんと岡本翔真(おかもとしょうま)くん)と過ごした、夏休みの1日についてご紹介します。

 

8月中旬、私たちは野球の聖地である阪神甲子園球場に行ってきました。
以前から「夏休みは甲子園へ高校野球を見に行こう」と約束しており、とても楽しみにしていたのですが、前日は雨のため、試合が中止に……。

少し不安な気持ちで当日を迎えましたが、雨は見事に止んで良い天気になりました。

 

無事に甲子園に到着し、スタンドに入ると応援団の声や、グラウンドの選手の声が聞こえてきて、私たちのテンションは最高潮に!

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スポーツ観戦で伝えてほしいことは?

座席についたときに、私は子どもたちにこんな質問をしました。
「ピッチャーマウンドはどのあたりにあるの?」

 

すると子どもたちは「この位置にマウンドがあって、こっちにファーストベースがある」と私の手を取り、その方向を指しながら教えてくれました。

見えない私に場所を伝えるにはどうすれば良いのかを考え、ぱっと行動に移す姿に感動しました。

 

そうしている間に試合が始まりました。

 

子どもたちは「ピッチャー投げた!ストライク!」と、私が何も言わなくても目の前の試合の状況を事細かく伝えてくれました。

 

またもや子供たちの姿勢に感動しながらも、こんなことを思っていたのです。

 

「いつまで私に説明を続けてくれるんだろう。最後までこの調子で説明し続けるのは大人でも疲れるぞ」

少し申し訳ないなと思いながらも、私は何も言わず聞き続けることにしました。

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5分ほど経過すると、やはり疲れてきたのか、言葉数も少なくなってきました。

 

すると、

子どもたち「ああ、もう疲れた~。ずっと説明するの無理や!ラジオ持ってないん?ラジオ聞いたら試合がどうなってるかわかるやん!」

私「おお!そうやな!視覚障害者の中には、球場でラジオの中継を聞いて、試合の状況を把握している人も多いねん」

子どもたち「じゃあ、ラジオ聞いてよ!」

私「僕は球場ではラジオは聞きたくないねん。なんでやと思う?」

子どもたち「うーん…。応援の声とか、打った音とか聞きたいから?」

私「大正解!せっかく球場に来てるんだから、雰囲気を楽しみたいわけ。だから、ラジオも聞かないし、そんなに細かく横で説明しなくても大丈夫やねん」

子どもたち「なるほどな。でも、今試合がどうなっているか分からんやん」

私「周りの観客の声を聴いてたらけっこう分かるで」

 

そんな話をしていた時、歓声とため息が混じり、プレーに動きがありました。

近くの観客が「おお!ナイスバッティング!ツーベースヒットや!」

私「ほらね!周りの人たちの会話で打球の方向とか、ボールカウントが分かるねん」

子どもたち「ほんまや~」

私「球場での楽しみ方は人それぞれ違うねん。だから僕には全部説明しなくても大丈夫」

子どもたち「そっか~。じゃあ、それ最初に言ってよ~!」

私「全部説明してたら大変だってことに気づいて欲しかってん、ごめんな。」

 

それから、子どもたちは私が「今のボールカウントは?」などと質問した際のみ、状況を伝えてくれるようになり、楽しく試合を観戦しました。

スポーツ観戦で伝えてほしいポイント

私が考える、球場で観戦するときの3つのポイント:

①座席の位置を伝える(グランドからどれくらい離れているのかなど)

②試合状況を伝える(ボールカウント、アウトカウント、打球の位置など)

③提供できる情報と必要な情報をお互いに共有する

 

スポーツ観戦の楽しみ方は人それぞれ違いますし、サポートする側が伝えられる情報にも差があります。野球を詳しく知らない人に、選手名やどんなピッチングだったのかという情報を求めることはできません。

相手がどんな情報を伝えてほしいか、また自分はどこまで提供できるのかをお互いに理解し、無理することなく楽しんで観戦することが重要であると考えます。

 

子どもたちは、私が楽しく観戦できるよう一生懸命状況を説明しようとしただけでなく、ラジオが重要な情報源であるということに気づいてくれました。

これまで私と様々なことに挑戦する中で、自然と相手の立場に立って考え、サポートをする姿勢を身に着け、行動してくれたことがとても嬉しかったです。

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野球観戦の後に

野球観戦の後は、子どもたちの夏休みの宿題の自由研究を少しお手伝いしました。

これまで、私と一緒に体験したことから、子どもたちなりの気づきや学びをまとめてくれました。

 

自由研究の題材にしてくれたこと、また体験から気づきや学びを得てくれていたことが非常に嬉しかったです。

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無事に自由研究が出来上がり、8月半ばにして宿題をすべて終わらせた子どもたち。

素晴らしいです!

 

私は、毎年高校野球の決勝戦が終わってから宿題に手を付け始めていたなんて、絶対に言えません(笑)

原口淳Jun Haraguchi

株式会社ミライロ 講師

生まれつき、視覚障害(全盲)のある講師。2011年より株式会社ミライロに入社。視覚障害者の視点から、教育機関や企業に対してユニバーサルデザイン化のコンサルティングや講演活動を行っている。地元兵庫県のブラインドサッカーチーム「兵庫サムライスターズ」で現役選手として活動する傍ら、小中学生を中心にブラインドサッカーの普及活動も行っている。