”障害者視点”が生んだ、新たなマーケティングの可能性

株式会社トランジットジェネラルオフィス

「ファッション、建築、デザイン、アート、音楽、飲食をコンテンツに遊び場を創造する」を企業コンセプトに掲げ、世界一の朝食と称される「bills」やJR東日本のレストラン列車「TOHOKU EMOTION」や「現美新幹線」などをプロデュースする株式会社トランジットジェネラルオフィス。(以下、トランジットジェネラルオフィス)

名古屋JRゲートタワーホテル15Fにある全220席の大型フレンチレストラン「THE GATEHOUSE(ゲートハウス)」では、2017年春のオープン前にミライロ・リサーチによる障害者対応のロールプレイング研修を導入し、お店づくりに取り入れることで、多様なお客様に喜んでいただけるおもてなしを実現しました。取組みのきっかけや、導入後の変化について、オペレーション事業部 ディレクターの豊村 鷹飛快(とよむら たかよし)様にお聞きしました。

「こうあるべき」の常識が壊れた、接客ロールプレイング研修を導入したきっかけ

オペレーション事業部 ディレクター 豊村鷹飛快様

オペレーション事業部 ディレクター 豊村鷹飛快様

豊村

弊社が店舗デザインのプロデュースをしている「nu dish Mousse Deli & Café」で行った障害者接客ロールプレイング研修に参加し、障害者視点の必要性を感じたことがきっかけです。

そこでは、車いすユーザー、視覚障害者、聴覚障害者のモニターがお客様役となり、入店から退店までの流れの中で施設・接客面のフィードバックを事細かくスタッフに行っていました。

普段、自分たちが信じていた「こうあるべき」という常識が壊れていき、設計段階から、多様な方々の視点を取り入れることの大切さを痛感しました。この気づきをゲートハウスに関わる全スタッフにも展開したいと導入を決めました。

ハードが変われば、ハートが変わる

nu dish Mousse Deli & Caféにて、30名が研修を受講

nu dish Mousse Deli & Caféにて、30名が研修を受講

豊村

研修前は、車いすユーザーのお客様ならこの席に案内をしようと決めていましたが、このくらいの幅なら大丈夫だろう、と思っていた通路が狭いことや、テーブルの支柱が低いことがバリアになっているという、当事者の生の声を聞き驚きました。知っているようで、知らないことが数多くありました。その後、急いで、ゲートハウスの動線の設計を変更し、テーブルやレジ台も新しいものを取り入れるなど、ハード面のバリアフリーを見直しました。

研修の学びが、接客応対の自信に繋がった

聴覚障害のある方に接客ロールプレイングを行う様子

聴覚障害のある方に接客ロールプレイングを行う様子

豊村

障害のあるお客様への接客経験が無いスタッフが多く、最初は戸惑っている様子でした。

実際に障害のあるモニターさんに、どんな接客が心地良いかを伺い、接客をブラッシュアップしていくことで、スタッフの表情からも自信が増していることを感じました。

例えば、視覚障害のある方は、メニューを説明する際に、“これ”“それ”などといってしまうと、何を指しているのがわかりません。細やかな言葉遣いや全体から細部に説明をするなど、指摘してもらいながら、一つひとつ改善していきました。少しの工夫や配慮で、喜んでもらえる実感があることが大きな発見であり、可能性を感じました。接客応対スキルの向上のために、他にもいくつかのサービス研修を行っていましたが、当事者からの意見はとても貴重でした。

週末はママさんの聖地に。障害者の視点が新たなビジネスチャンスを生んだ

天板の高さを工夫したテーブル

天板の高さを工夫したテーブル

豊村

実は、週末はママさんの聖地になっています。車いすユーザーの方にも楽しめるようにと工夫したことが、ベビーカーを使うママさんたちの用途にもぴったりでした。例えば、通路が通りやすくなるようにと広くスペースを設けたことが、ベビーカーを置く場所の確保に繋がり、食事をしやすいようにと天板の高さを工夫したテーブルを用意したことが、ママさんと赤ちゃんの目線が合う安定したベビーチェアの設置に繋がりました。特別な販促はしていませんが、ママさん達がインスタグラムを使って、子連れにも優しい店舗と口コミを広げてくれました。

併設するホテルとの連携で、より万全の体制を

希望に応じて、ベビーチェアの設置も可能

希望に応じて、ベビーチェアの設置も可能

豊村

併設するホテルとは朝食を連携していて、週1回会議を行っています。障害のあるお客様も多数お越しになるので、事前にお客様の情報を把握する機会を設けています。スタッフには、お客様の特性を共有し、どのようなお客様が来られても万全の体制で迎えられるように準備をしています。

また、月に1度、お店が休みである日曜の夜に全スタッフの会議では、障害のあるお客様のご意見を吸い上げ、アクションプランに落とし、更なるお客様満足の追求をしています。

多様な方々の声を聞いて、たくさんの人に喜ばれる店舗をつくる

2017年4月にオープン。ハードとソフトのユニバーサルデザインを導入

2017年4月にオープン。ハードとソフトのユニバーサルデザインを導入

豊村

今後新たな店舗を作る際は、設計段階から多様な方々の視点を取り入れ、ありとあらゆる可能性を追求していきたいと考えています。これまで、様々なマーケティング手法を用いて、店舗づくりをしてきましたが、そこに“障害者の視点”が加わることで、より大勢の人にとって快適なサービスを生み出せることに気づきました。これは目から鱗の発見でした。今後も、障害のある当事者の気づきや感性、経験を取り入れることで、想像の幅を広げ、多様なお客様へのおもてなしに繋げていけたらと思っています。