一般の方向け ナレッジ
2021年02月19日

【前編】コロナ第三波を迎え、『誰も取り残さない社会』を目指して(12/3対談まとめ)

ミライロ

本記事は、ダイバーシティ&インクルージョンを推進してきた(一社)ダイアローグ・ジャパン・ソサエティと(株)ミライロの協働を記念し、「コロナ第三波を迎え、『誰も取り残さない社会』を目指して」をテーマに開催された緊急提言の内容をまとめたものです。動画はYouTubeにて公開されていますので、ぜひご覧ください。

 

話す人

下記写真、左から順に

・合澤栄美   株式会社ミライロ社員 本イベントの司会
・志村真介   ダイアログ・イン・ザ・ダーク・ジャパン代表
・志村季世恵  (一社)ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ代表理事
・垣内俊哉   株式会社ミライロ 代表取締役

写真 合澤、志村真介、志村季世恵、垣内

代表の挨拶


合澤
今日12月3日は国際障害者の日、日本では障害者週間の初日です。新型コロナウイルスの感染が再び拡大する中、誰も取り残さない社会について、皆さまと改めて考える機会にできればと思っております。私、本日の司会を務めます株式会社ミライロの合澤栄美と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

それでは最初にダイアログ・イン・ザ・ダークジャパン代表の志村真介よりご挨拶申し上げます。

 

写真 話す合澤


志村真介
志村です。今日は株式会社ミライロさんとのコラボレーションの発表ということで、非常に嬉しいです。どうもありがとうございます。

ダイアログ・イン・ザ・ダークは、ベルリンの壁が崩壊した1989年に、ドイツで始まりました。物理的な壁が崩壊し、文化が融合し始めたころですね。

ダイアログ・イン・ザ・ダークは漆黒の暗闇の中に参加者がグループで入っていきます。普段目を使っている人たちは、暗闇の中だと動けなります。そこで、普段から目を使っていない視覚障害者が案内をし、日常では「助けられる」という立場から、人を助けるという立場に逆転させ、参加者も案内人も視覚を使わないという対等な出会いを創出しています。

日本では20年この活動を続けて、大人から子どもまで23万人の方にご体験いただきました。2020年は聴覚を閉じて表情やボディランゲージで対話を楽しむというダイアログ・イン・サイレンスも展開し、東京・竹芝にその両方が楽しめるダイアログ・ミュージアム「対話の森」をオープンしました。

ところが今、新型コロナウイルスの感染が拡大しています。私たちは20年間、「人と人は対等だよ」「人はいつでも人を助けることができるんだよ」という関係性を世の中に提供してきたのですが、何か融合よりは断絶の方に向かっているような気がします。

写真 話す志村真介

先週、駅のホームから視覚障害者が転落したという悲しいニュースが飛び込んできました。

尊い命がなくなってしまったことはものすごく心が痛いですが、そのニュースの中で「あれ?」っと思ったことは、「そのホームには誰もいなかったわけではなく、多くの人がいた。」ということです。

でもきっと、携帯を見ながら自分の中に籠る人が多かったのでしょう。周りが見えない・関われない状態がコロナによって余計に増大している気がします。

日本のバリアフリーの環境、つまり駅にホームドアが設置されるなどについては、今後ももっと進化し、世界トップレベルのところまでいくと思います。

しかし、今自分たちが気を付けなければいけないのは意識の部分です。それぞれの人の中にある意識の壁・見えない壁を何とか融合していかないといけない。

そのために私たちがやっているダイアログ・イン・ザ・ダーク、サイレンスと、ユニバーサルマナー検定をセットで体験できるようになりました。

 

合澤
ありがとうございました。
続きまして、株式会社ミライロ代表取締役垣内俊哉よりご挨拶申し上げます。

 

垣内
株式会社ミライロの垣内です。ご視聴いただいている142人の皆さま、お集まりいただきありがとうございます。

ユニバーサルマナー検定は2013年にスタートし、今日まで10万人の方に受講いただきました。検定には3級2級があり、9月から1級が開始しました。この1級の中でダイアログ・イン・ザ・ダーク、ないしはダイアログ・イン・サイレンスを受講いただくことで、1級が取得できます。障害のある方々のことを学ぶ上では欠かせない「体験」を、ダイアログと連携でき嬉しく思います。

コロナによって、障害のある方々の生活も一変しました。皆さんが街中で障害のある方々を見かける機会はずいぶんと減ったことと思います。車いすユーザーである私も、外出には多くの不安を感じます。

接する機会や触れ合う機会がないから、わからない・知らないから、向き合うことやサポートすることをやめようではなく、こういう時代だからこそ、より多様性に配慮できるよう学び、考え、行動する姿勢を持っていただけたらと思います。

私たちだけでは、多様性に配慮できる社会の実現は叶いません。今日ご参加いただいている皆さんと一緒にこの想いを社会全体へ広げていけたらと思っています。

 

合澤
これから皆さんに、ダイアログ・イン・ザ・ダークとダイアログ・イン・サイレンスを体験していただいた方の感想を収録した動画をご覧いただきます。生の声をぜひお聞きください。

動画内13分から収録内容が再生されます。

 

活動の原点

 

合澤
それでは次にトークセッションに移ります。このセッションにはダイアローグ・ジャパン・ソサエティ代表理事の志村季世恵も加わります。

ダイアログとミライロのパートナーシップの背景にあるそれぞれの原点について伺いたいと思います。どのような社会を実現したいと考えてそれぞれの活動を始めたのか教えていただけますか。ではまず、季世恵さんお願いします。

 

志村季世恵
志村季世恵です。

ダイアログは哲学博士のハイネッケという人がドイツで発案し始まりました。彼はお父さんがドイツ人、お母さんはユダヤ人という、当時の社会的な立場に大きな違いがある中で育ちました。

どうしたら平和な関係が作れるのかと悩んだ彼は、対等な対話の場を創出しようと考えました。視覚情報を閉ざした真っ暗な中での対話や、音を消し言葉を使わないコミュニケーションの中でなら本当の気持ちを伝えられるのではないか。その願いを持ちながら、彼はダイアログを続けてきました。

ダイアログシリーズの参加者は楽しみながら、このソーシャルエンターテイメントを体験していきます。皆さんが楽しく対話をして、そして五感を豊かにしながら相手を感じていく。その発見と気づきを持ちながら、世の中を変えていく。そんな活動を続けてきて、今はミュージアムとしてお客様を招いている。それが私たちの活動の流れです。

写真 話す志村季世恵

 

垣内
株式会社ミライロではバリアバリューという企業理念を掲げ、今日まで事業を行ってきました。障害のある方々の視点・経験・感性を活かし、新しいものを生み出していこうという取り組みを行ってきました。その中で大切にしてきたことは、障害のある方々とのふれあい・対話でした。

ミライロでは、私のように車いすに乗っている社員や、目が見えない、耳が聞こえない、多様な社員が集っています。彼らだからできることを探していこうという視点から生み出されたサービスがたくさんありました。

写真 話す垣内

私が初めてダイアログ・イン・ザ・ダークに参加させてもらったのは今から2年くらい前のことでした。車いすで真っ暗闇を移動するのは不安がありました。

でも、案内してくださった視覚障害のある方がとっても頼もしくて。この方がいないとこの暗闇は絶対に移動できないな、と体験したことを強く覚えています。あのときのあの空間では、視覚障害のある方に頼りきりでした。

本来あるべき「お互いに頼って、お互いに頼られて」という姿がここにあると思いました。障害者だから守ってあげよう、支えてあげようではなく、お互いに支え合う社会を作っていくためにも、多様な方々への配慮を皆さんと一緒に広げていけたらと思っています。

それを広げていくには、バリアバリューが大切です。ダイアログ・イン・ザ・ダークにおいては視覚障害者がアテンドすることで、ユニバーサルマナー検定においては障害当事者が講師となることで、皆さんの知識や技術の幅を広げていこうとしています。障害当事者のそれぞれの視点・経験・感性を活かすということを、これからも大切にしていきます。

 

コロナ禍における自身、社会の変化

 

合澤
ありがとうございました。障害のある当事者の視点・経験を大切にするという価値感を、2つの組織が共通して大事にしてきたんだなということを感じました。

それでは続いて、新型コロナウイルスの感染が再び拡大する中、ご自身にどのような変化があったか、また、社会の変化でどのようなことが特に気になっているかという点についてお話を伺います。垣内さんからお願いします。

 

垣内
車いすユーザーの私からするとやはり多くの不安がありました。アメリカで発表された論文に、車いすユーザーの感染リスクが高い理由は2つあると書かれていました。

まず1つ目は視点が低いことから、飛沫を浴びやすい。もう1つは、ずっと手でタイヤをこいでいるため、地面から菌を拾いやすいということが論文で明らかにされ、車いすユーザーは特に気をつけましょうねと報道されました。

これを見て私が何を思ったかというと、「だったら出なきゃいいや」と。思考が停止してしまったわけです。これはよくないことだなと今は改めて思います。

感染リスクがあり外出を控えた結果、障害者が社会から忘れ去られるようなことがあってはいけないと。

例えば、いたるところに消毒液があります。でも私は足踏みの消毒液を使えません。小さなことですが、それになかなか気づけていない人や企業が多い。気づけるようにするには、誰がどんなことに困っているのか、それを聞いたりして学ぶ必要があると思います。

また、社会的に見ると非常に苦しい経済状況にあります。残念なことに4月から9月の間で障害のある方々の解雇が進み、半年間で1213人の障害者が職を失いました。昨年の同じ時期と比べれば40%増です。

もちろん、障害者に限らず皆苦しい状況ではあります。生活への困窮が長く続けば、障害のある方々への理解を広げていこうというムーブメントも落ち着いてしまうのではないかと考えます。せっかくの流れを止めないためにも、障害のある方々のことを考えよう行動しようという想いをお持ちの皆さんにぜひ、一歩踏み出してほしいなと思っています。

皆さんの想いや広げたアンテナがあるからこそ、いろんなことに心配りができるのではないかと思います。

リモートワークや時差通勤が一般的になってきました。これにより障害のある方々の働く選択肢は間違いなく増えるでしょう。今まで、職場のバリアフリーや通勤の問題が理由で働けない障害者がたくさんいました。

すぐ改善とはいかないかもしれませんが、2、3年後に「コロナがあったからこそ社会はこれだけ良くなったんだ」と振り返られるように、皆さんと一緒により良い社会を作っていけたらと願っています。

 

志村真介
垣内さんのおっしゃるように、気がつかないことがいっぱいありますよね。

3月ぐらいからコロナウイルスがだんだん広まってきて、初めは中国のことだから自分たちには関係ないと思ってたと思うんですが、それが世界中に広がり、今ではこんなに早く皆が同じ状態になりました。これは歴史上あまりなかったことではないでしょうか。

私たちは自由に動けるということを20世紀に獲得しましたが、今は海外はもちろん、会社に行くことすらままならない。それは障害の有無に関係なく、全世界のあらゆる立場の人がある種「対等」なわけです。

写真 話す志村真介

私達は20年間、人は対等だという場を作り続けてきたので、暗闇や静けさの中だけではなく世界中が対等だと皆がわかりつつあるということは、すごくチャンスだと思うんですね。

今日、お集まりいただいた方も勉強なさっている方が多いと思います。でもなかなか相手の立場になれない。なので私どものようなプロジェクトが貴重な場所だったわけですが、今は日常的にみんなが動きづらくなっている。

 

※ここで機械のトラブルにより、マイクが途切れてしまいました。後編はこの後の様子をお伝えしていきます。

前編では、ダイアログ、ミライロがそれぞれ始まった背景や、新型コロナウイルスによる自身・社会の変化についてお話しいただきました。

後編はWithコロナ、Afterコロナにおける「誰も取り残さない社会」への提言、便利な情報保障ツールについてなど、まだまだイベントは続きます。

後編はこちらから!

ダイアログシリーズが合格資格の一つになっているユニバーサルマナー検定1級の詳細はこちら