ナレッジ
2023年08月25日

「合理的配慮」とは?事例を交えて解説します

ミライロ

※この記事は2021年12月に公開した記事を再構成したものです

皆さんは「合理的配慮」という言葉をご存じでしょうか?

合理的配慮は、社会に存在する障害者にとっての困りごとを解消するために行う配慮として、2016年4月に施行された「障害者差別解消法」の中に明記されています。

また「障害者差別解消法」は2021年5月に改正され、2024年4月1日に施行されることが決まっています。
内閣府「障害を理由とする差別の解消の推進」

障害のあるお客さまや従業員から困りごとの解消について相談された場合、適切な対応をすることはできるでしょうか。これからより社会に浸透していく合理的配慮について理解し、状況に合わせて対応することが求められます。

この記事では合理的配慮について、具体的な事例も交えて解説します。

0815_blog-illust

<目次>

 

障害の社会モデル

合理的配慮について考える際に、法律における『障害』の考え方について知っておく必要があります。

考え方の例として、
階段を上がることが困難な車いすユーザーが街にいた場合
⇒足を動かすことが困難であることを障害と考える
⇒階段にスロープ等がついていない社会環境が障害と考える
という2つの違いがあります。

このような考え方はそれぞれ、
前者は「障害の個人モデル(医学モデル)」
後者は「障害の社会モデル」と呼ばれています。

障害の個人モデル(医学モデル)

障害の個人モデルとは、心や身体機能の欠陥が障害であり、個人が治療やリハビリによって社会に適応することが必要であるという考え方です。

例えば視覚障害者において紙に書かれた情報の取得が難しい場合、視覚機能が失われていることが障害の原因であるという考えになります。

障害の社会モデル

障害の社会モデルとは、障害者や高齢者のような少数の方に対応できていないという社会の不備が障害の原因であり、社会の側が障害をなくす必要があるという考え方です。

視覚障害者において紙に書かれた情報の取得が難しい場合、音声や点字での情報提供の用意ができていないという、社会的な原因が障害であるという考えになります。

合理的配慮の考え方のもとになっている考えは「社会モデル」です。

障害者が直面する社会の困りごとに対して、障害者と対話を通じた個別の調整を行い、合意を得た対応をもとに社会にある障害を取り除く必要があり、その障害を取り除く行為が合理的配慮となります。

障害の社会モデルに関して詳しくはこちらの記事を参照ください。
障害の社会モデルとは?障害について改めて考える』

車いすユーザーへの接客の様子

障害者差別解消法

冒頭でも紹介した通り、合理的配慮の提供が必要とされている障害者差別解消法は、心身の障害を理由とする差別を解消し、障害の有無に関わらず、お互いに認め合って共に生きる社会をつくることを目指して、2016年4月1日に施行されました。

障害者差別解消法では障害を理由とする差別を「不当な差別的取扱い」と「合理的配慮を提供しない」ということに区別しており、不当な差別的取扱いの禁止と合理的配慮の提供を必要としています。

不当な差別的取扱いとは、正当な理由がなく障害を理由にサービスの提供を拒否することや障害者を区別することです。

例えば「障害を理由に入学を拒否する」などのサービス提供の拒否、サービス提供の制限が「不当な差別的取扱い」にあたります。
「不当な差別的取扱い」はすでに行政機関や民間事業者で禁止されています。

「合理的配慮の提供」は行政機関である国や自治体では法的に義務化され、民間事業者は努力義務とされていました。しかし、2021年5月に障害者差別解消法の改正法が成立し、2024年4月1日から民間事業者も合理的配慮が法的義務となります。

合理的配慮の基本的な姿勢としては、以下の2点が重要です。

①障害のある人の要望を尊重し、話し合う

障害の特性は人によって違うため、必要な配慮の方法も多様です。見かけなどで勝手に判断せずに、障害者のある当事者本人としっかり話し合い、ニーズを正しく認識することが大切です。

②負担が重すぎない範囲で取り組む

障害者の要望が、事務・事業への影響、物理的・体制上の制約、費用負担などの観点において「過度な負担」を伴うと思われる場合、本人に理由を説明して理解を得るとともに、実施可能な代替案を柔軟に考えましょう。

 

合理的配慮の具体例

合理的配慮がどのようなときに求められ、どのような配慮をするのが適切か、また合理的配慮を提供するために求められる環境整備(事前的改善措置)も含めて4つの例を紹介します。


①配慮が必要な場面
車いすユーザーが受付や窓口を利用する際、カウンターが高いために支払いや用紙への記入が難しく、サポートの申し出があった。

⇒適切な配慮

  • カウンター以外の場所でのやり取りを案内する
  • 釣り銭トレイや記入用のボードを渡し、手元で対応できるようにする

②配慮が必要な場面
聴覚障害のある方が、マスクをしている店員の口の動きを読み取れない。

⇒適切な配慮

  • 筆談ボードやスマートフォンのメモ、音声認識アプリを用いて説明する
  • 間に透明のボードを設置し、一時的にマスクを外して対応する

③配慮が必要な場面
視覚障害のある方が、飲食店のメニューを読めないため注文できる商品がわからない。

⇒適切な配慮

  • 点字のメニューを用意する
  • 読み上げ機能がある電子版メニューを用意する
  • 商品名や値段を店員が読み上げて伝える

④配慮が必要な場面
知的障害のある方が、複雑な説明や専門用語がわかりづらく、受付や手続きに不安を感じる。 

⇒適切な配慮

  • わかりやすい言葉や図などを用いて説明できるよう事前に準備しておく
  • ゆっくりと丁寧に話すことを意識する
  • 相手が理解したのを確認してから、次の説明に移る


ここで紹介したものはあくまでも一例です。「障害のある人の要望を尊重し、話し合う」ことが大切です。その場に応じて臨機応変な配慮が求められています。
車いすユーザーへの接客の様子

障害者差別解消法に係る裁判例

一方で、差別的取り扱いを行ったり、合理的配慮の提供が守られずに、結果的に裁判などが起こるケースもあります。では、どのようなことが「合理的配慮の不提供」に当たるのでしょうか。実際に過去にあった事例を紹介します。

ケース1:進行性の筋ジストロフィー症を理由とする高校入学不許可処分

進行性の筋ジストロフィー症に罹患していた中学生が、入学願書とともに専門医の診断書を提出した上で、ある高校の学力検査を受検しました。学力検査の結果は合格点に達していたものの、進行性の筋ジストロフィー症に罹患していて、高等学校の全課程を無事に履修する見込みがないとして、養護学校の方が望ましいと入学不許可の処分が行われてしまいました。

裁判では、不許可処分が身体障害を唯一の理由としたことが違法であるとし、処分の取消しと慰謝料の支払いが求められました。

判決の理由として「身体障害者が高校の全課程を履修可能であるにもかかわらず入学を許可しないことは、身体障害を理由とする不当な取扱いである」とされました。また、「学校の障害者の受入体制が不十分なら、それを改善するためにどのような方策が必要かを真剣に検討する姿勢に立つことが肝要」ともされています。

参考文献:障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律に係る裁判例に関する調査

校舎のイメージ

ケース2:車いすでのスポーツクラブ入店拒否

大手スポーツクラブの運営するジムで、電動車いすで生活する男性が入店や受付の拒否、一方的な除名を受けたとして、スポーツクラブを相手取り裁判を起こした例です。

男性は開店当初からの利用者で、2013年に脳出血で半身不随となった後も利用し、車いすを受付横に置きトレーニングをしていました。しかし、19年にジムの支配人が代わってから、入口近くに車いすを置くよう求められたり、ジム内では歩いているのだから歩いてジムに来るように言われ、その後車いすでの危険な移動や従業員への威嚇行為に及んだとして男性は除名されたと言います。

裁判では、男性を一方的に除名したのは「根拠を欠くもので無効」として、慰謝料など33万円の支払いをスポーツクラブに命じました。同時に「不当な差別的取り扱いまで意図したとは認められない」とされましたが、車いすでの入店や受け付けを制限したのは「対応が不十分だった」と指摘。合理的な範囲内で代替の利用方法を提案すべきだったなどとしています。

入会時や事故の後に利用について話し合いが行われていたのかもしれませんが、支配人が代わってからその相談内容が引き継がれていたのか、再度話し合いの機会が設けられていたのかは疑問が残ります。一方的な除名などや拒否をせず、利用者と合理的な範囲で何ができるか考えることが求められています。

参考文献:毎日新聞:車椅子入店拒否のスポーツジム会社に33万円支払い命令 東京地裁

スポーツジムのイメージ

どちらの例も、障害がある当事者への十分な相談なしに、一方的に対応したことが「合理的配慮の不提供」といえる要因であるでしょう。障害のある当事者と話し合い、どうすればニーズを叶えられるか、もしくはどのような代替手段があるのか考えた上で、相互に合意した対応策が求められます。

まとめ

障害者差別解消法の改正により、2024年4月から民間事業者にも合理的配慮の提供が義務化されます。障害者差別解消法の改正法が施行される前に、誰もが安心して過ごせる社会づくりの準備を始めましょう。

合理的配慮の提供は、その時の環境や相手の状況によってさまざまなケースが存在します。
事業者側の設備投資や情報発信のように追加の費用や時間がかかることもあるため、法律改正に備えて計画的に考える必要があります。

まずはご自身の会社や店舗で、合理的配慮に関してどこまで理解や取り組みが進められているかを知るところから始め、今後の計画を立てていくことをおすすめします。

ミライロでは、現状を可視化し、実行すべき内容を確実に実行していくための調査ができる「ミライロサーベイ」を実施しています。合理的配慮の提供を行うにあたって「何から取り組んでいいかわからない」「具体的な対応策まで考えられていない」という方はぜひお気軽にご相談ください。

障害者対応診断 ミライロサーベイ