インクルーシブデザインによる商品開発で社会課題の解決を目指す

株式会社カウネット

コクヨグループのカウネットでは、テクノロジーとクリエイティビティで、すべての働く人に価値ある体験を生み出す取り組みを推進し、大企業から中小事業所まで規模に関わらず使うことができるEコマースプラットフォームを提供しています。

現在コクヨグループは、社員のワークライフバランスの実現や新たな働き方を推進し、多様性を重視した組織作りを通じてイノベーションを生み出すことで、社内外のウェルビーイングを高めることを目指しています。

その一環として、インクルーシブデザインによる共感と共創によるモノづくりやコトづくりを進めています。カウネットにおいても、コクヨグループの「HOWS DESIGN(ハウズデザイン)」の方針に沿って、インクルーシブデザインによる商品開発に着手しました。

「HOWS DESIGN」のプロセスを経た商品開発や今後の展望について、企画や開発に関わるご担当者さまにお話をうかがいました。

リードユーザーとの対話における気づきを商品に反映

聞き手

まずは「HOWS DESIGN」の取り組みについて教えてください。

私たちは、多様な社外の仲間とともに、インクルーシブデザインによって社会のバリアを発見し、誰もが自分らしくいられる社会づくりを目指しています。

カウネット_ご担当者様

そのプロセスに「HOWS DESIGN」という名前を付けて、共感・共創によるモノづくり・コトづくりを進めています。

HOWS DESIGNは4つのプロセスをたどります。
 ① 社会のバリアを見つける
 ② 解決方法のアイデアを検討する
 ③ 試作品で検証する
 ④ 具体的な商品やサービスで検証する

プロセスは、必ずしもまっすぐな一本道ではありません。進んだり戻ったり、方向転換したり。まるでうねうねと曲がりくねった道を進むように、みんなで悩みながら、試しながら進んでいきます。

「どんなバリアに困っているのか?」「こんなアイデアはどうか?」
モノづくり・コトづくりで生まれるたくさんの問いを、リードユーザー(※)をはじめとするさまざまな人たちとの対話を通じた気づきに変えていく。

そんなプロセスを経るHOWS DESIGNから生まれたプロダクトやサービスは、たくさんの人たちのワクワクを形にしていく兆しになると信じています。

hows design プロセス

※リードユーザーとは……障害のある方をはじめとした社会のバリアに阻まれている方々の中で、商品をより良い状態にするため導いてくれる対象・開発の参加者を示します。

 

インクルーシブデザインの考え方を取り入れた商品開発に着手

聞き手

開発した商品と企画の背景を教えてください。

既に2つのアイテム(インタビュー時/現在は6アイテム:2024年3月時点)を商品化しています。1つは、色の区別がつきにくい色覚特性のある方も識別しやすいよう5色展開した「USBメモリ」です。

もう1つは、ひと目見ただけでどこから開けるか分かりやすい視認性と、取り出しやすい形状を備えた「取り出しやすい箱入り封筒」です。こちらの商品はコクヨグループの特例子会社である、コクヨKハートの上肢障がいの社員にヒアリングをしながら開発した商品です。

画像_USB箱入り封筒

※USBメモリスライド式(左)/取り出しやすい箱入り封筒(右)


今回は5色展開のUSBメモリ開発の取り組みについてご紹介します。

元々はカウネットとしてUSBメモリのPB商品が欠落していたので、そこを補おうということで企画がスタートしました。カウネットでは企業向け商品を扱っており、ビジネスシーンにおいてUSBメモリの色別にデータを管理する利用法に注目していました。

この情報を基に多色展開の企画を推進していた中、インクルーシブデザインを取り入れ、多様な人々にとっても識別しやすいUSBメモリの開発を決定しました。

 

これらの課題を解消するために、プロジェクトメンバーとの議論や障害のある当事者からのユーザーインタビューを通じて得た気づきをもとに、組織共通の理解を築くためのガイドを作成することにしました。

ガイドの作成により、ユーザーの満足度とブランド価値の向上を図りながら、ただ「使いやすい」だけではなく、「使いたい」と感じられるオフィスビルの実現を目指しました。

視認性を重視したUSBメモリ開発

聞き手

実際の商品開発におけるエピソードがあれば教えてください。

画像_色見本

ミライロ協力のもと、色覚特性や視覚障害のあるリードユーザーの方々に集まっていただき「視認しやすさ」を追求していきました。

ワークショップでは「カラーユニバーサルデザイン推奨配色セット」の有効性を検証し、リードユーザーに色の見やすさ、識別のしやすさを問いました。

その結果、人によって視認しやすい色が異なることが明らかになりました。特に「薄いピンク」と「白」など、明度が近い色の区別が難しいことがわかったのです。

試作段階では視認性を重視し、USBメモリの色を「濃いピンク色」と「白」に調節しました。色の見え方が人によって異なるため、色名と容量を明確に表示し、文字の色とUSBの色のコントラストを工夫しました。

画像_USBの試作品

しかし、USBメモリだけでなく、パッケージデザインにも課題が見つかりました。ワークショップでの経験により、初期デザインでは視認性がよくないという点に気がつくことができました。見た目よりも読みやすさを優先して、文字色の変更を行いました。

今回はUSBメモリの開発でしたが、それ以外にも視認のしやすさが必要な識別要素がある商品群はたくさんあったりすると思うので、今後もヒアリングを通して商品開発に活かしていきたいと思っています。

強みは「総合的な視点と障害がある当事者の視点」

聞き手

ミライロとの取り組みの経緯や印象があれば教えてください。

ミライロは既にコクヨとの取引があり、とても安心感がありました。また知識が豊富で、私たちが手探りの状態だった時に大変頼りになりました。

初めて会った時の印象は、非常に明るくポジティブでした。とくにユニバーサルマナー検定を受講した際、障害のある講師の方は、はじめ障害があることが見て取れず、話しているうちにやっと気づく程度でした。

カウネット_ご担当者様

これらの経験は自身の意識改革にも繋がりました。私たちは障害のある方と接することに慣れておらず、過度に気を遣う傾向がありました。

今回の商品開発においても障害のある当事者を集めていただいたり、ヒアリングを控えたミーティングでも、適切な言葉遣いや配慮の必要性を学ぶなど、大変助かりました。

障害のある当事者ネットワークはもちろんのこと、幅広く取り組みをされているからこそ、さまざまな視点のアドバイスをもらうことができました。

社会課題の解決に貢献できる実感

聞き手

すでに販売した商品の反響があれば教えてください。

5色展開のUSBメモリの販売開始後「色ごとに整理できてとても良い」というような肯定的な意見が寄せられるなど、多くのユーザーさまから好評を得ることができました。

発売初期にはカタログに掲載されておらず、ウェブで積極的に検索しないと見つからない商品でしたが、初月の売上は予想を超えました。

この時、インクルーシブデザインの商品が特定のニーズを持つユーザーだけでなく、幅広い層に受け入れられ、社会的な課題解決に寄与できると感じました。

「HOWS DESIGN」のプロセスを経る商品開発は、通常の開発に比べて2〜3倍の時間がかかりますが、私たちは社会課題を解決していくという覚悟を持って取り組んでいます。

コクヨグループでは、2024年に新商品の20%、2030年には新商品の50%をインクルーシブデザインのプロダクトにする目標を掲げています。

コクヨのマテリアリティ※コクヨのマテリアリティ 社内外のWell-beingの向上

正直、高い目標だと思いますが、役員が参加する会議でどの商品に対しても「配慮されているか」「HOWS DESIGNのプロセスを踏めないか」という視点での問いが入ります。組織全体でインクルーシブデザインに対する感度が高まっている実感があります。

今後、多くの方々にインクルーシブデザインの考え方を広め、社会全体が共感し合う未来を実現したいと思います。

聞き手

本日は貴重なお話をありがとうございました。