ワクワクする未来のワークとライフをヨコクする

コクヨ株式会社

コクヨ株式会社は、2024年にインクルーシブデザインが考慮された新商品構成率20%以上(シリーズベース)を目標に掲げ、商品開発のプロセスにインクルーシブデザインを取り入れて障害者との対話を通じた開発を行なっています。

その一環として、これからの社会に求められるオフィスづくりに先駆けて、同社ではダイバーシティオフィス「HOWS PARK(以下、ハウズパーク)」を2023年6月から本格稼働しました。

ミライロは同社とパートナーシップを組み、新オフィスの技術監修を行いました。加えて、プロジェクト推進に向けたダイバーシティの理解・共感を醸成するためのユニバーサルマナー検定の実施や課題のヒアリング等を行うワークショップをサポートしました。


今回は、人権や多様性の考え方、同オフィスへの取り組みについて、CSV本部サスティナビリティ推進室のご担当者様にうかがいました。

ダイバーシティ&インクルージョン&イノベーションの考え方

聞き手

人権やダイバーシティについてのお考え、取り組みなどについて教えてください。

コクヨ株式会社 CSV本部 サステナビリティ推進室 理事 井田 幸男 様

コクヨ株式会社
CSV本部 サステナビリティ推進室
理事 井田 幸男 様

この2年ぐらいの間に決めたのは「ダイバーシティ&インクルージョン&イノベーション」という考え方です。人権や多様性を考えたときに、共通しているのは「1人1人が生きた個人である」ということ。

私は今眼鏡をとると視力は0.1ぐらいですが、眼鏡が発明されたことによって、私は不自由なく物を見ることができています。この眼鏡のように、私たちのビジネス領域の中で、今の社会システムの中に存在する「生きづらさ」や「働きづらさ」を1つでも解決することにより、多様な方々の社会参画を促していくことができるのではないかと考えています。

それはオフィスという空間や家具、文房具など、コクヨで解決できることはたくさんあります。私たちは解決するための知恵、それを世の中の多くの方々に届けるところまでやっていく。要するに「&イノベーション」のところまでやるというのが、私たちのダイバーシティだと考えています。

コクヨは本当に「インクルージョン」ができているのだろうか?

聞き手

これまでも人権や多様性に関して先進的な取り組みをされてきたと思うのですが、何か課題があったのでしょうか?

コクヨとして、長期ビジョンをバックキャスト型で考える中で、ダイバーシティとかウェルビーイングの問題をどう捉えるのか。ダイバーシティ&インクルージョン&イノベーションの考えの中で「私たちは本当にインクルージョンできているのか?」ということを課題として認識していました。

2004年7年に作った特例子会社「コクヨKハート」という環境の中で障害のある方が働いていますが、国内4,400人の社員のほとんどは会話をしたことがありません。コクヨが法定雇用率を守っている会社としか知らないわけです。私たちのインクルージョンっていうのは「法定雇用率を守ることなのか?」。それとも「本当に1人の個人として、同じように長期ビジョンの方向性に向かって一緒に働く仲間という状態にすることなのか?」。本来は後者であるべきなのですが、全くできていませんでした。

コクヨらしい場作りを目指すダイバーシティオフィスに着手

聞き手

そうした課題をどのように解決しようと思ったのでしょうか?

ハウズパークのロゴ

「障害者ともっと交流しましょう」「何かイベントをしましょう」といっても、それはイベントのための交流です。長期ビジョンを作るために、一緒に仕事をするというインクルージョンになっていないのではないか、と、経営層ともかなり議論しました。

そうした中、一つの方向性として冒頭にお話しした働きづらさなどの克服に向けて、コクヨで働く障害のある人とともに考え、開発していく「インクルーシブデザイン」という手法を導入することに決めました。これこそ私たちが目指すインクルージョンということで、コクヨらしい場作りを目指して、ダイバーシティオフィス「ハウズパーク」のプロジェクトに着手しました。

イノベーティブなミライロとなら「一緒にやれる」と思った

聞き手

ハウズパークの監修面でミライロにご依頼をいただくことになったのですが、どのような点をご評価いただき、お選びいただいたのでしょうか?

ミライロを知ったきっかけは、デジタル障害者手帳「ミライロID」の取り組みでした。すごくイノベーティブな着眼点を持つ会社だなと感心しました。非常に興味を持ち、ミライロとなら一緒にやれるのではないかと感じ、問い合わせをしました。

井田様

そのあと自らユニバーサルマナー検定の3級と2級を受講しました。驚いたのは障害のある方が講師ということでした。限られた時間でしたが、障害のある講師に教えていただける新鮮さと、対話の重要性を気づかせていただきました。多くの社員にも経験してもらいたいと思い、インクルーシブデザインに取り組む開発者がユニバーサルマナー検定を受講し、たくさんの気づきを得る機会をいただきました。

ユニバーサルマナー検定で理解を深めたあとは、社内の現状を把握するために、コクヨKハートの障害のある社員にも集まってもらい、ディスカッションをしました。

既に整えられている点や、今後課題となり得る点を中心に確認し、毎日過ごす職場だからこそ、誰もがより快適に過ごせるよう、同社の社員と共に意見交換を行いました。

聴覚に障害のある社員がいるグループにはミライロの手話通訳者を派遣し、ファシリテートをしながら進めることで、コミュニケーションの壁を感じることなく、意見を言いやすい環境を作ることができました。

ユーザーの立場に立ったミライロの体系的、構造的な視点に驚く

聞き手

空間作りのプロであるコクヨからみてミライロとの協働に不安はなかったでしょうか?

不安はありませんでした。バリアフリー法に準拠しているかどうかは、設計の段階でチェックができるのですが、そうではなく、本当にそこを使う人にとってどうかが重要です。例えばカームダウンルーム*1を作ろうとする際に、コクヨの担当者が出した案は「カーテンで仕切る」というものでした。これに対して、ミライロからは「カーテンを引くあの”シャー”という音をすごく気にされる精神・発達障害の方もいます。」と言われ……。そういうことに私たちは気付いていなかったのです。

カームダウンルーム

ある程度、閉じられた空間にするということは分かるのですが、それが当事者の音問題としてどう感じるか分からない。しかしミライロは障害がある当事者の視点からアドバイスしてもらえる。

私たちの設計図面に対して、ミライロの技術監修の方から、かなりの数のチェック項目が返ってきました。体系的、構造的にチェックいただけるのだということに驚きを覚えた記憶があります。そういう意味でプロから指導を受けることに対して何ら不安はありませんでした。

<配慮事項を元に変更を加えた一例>

【トイレ】
電動車いすにも対応できる広さの多機能トイレを増設しました。引き戸の自動扉やオストメイト、ユニバーサルシートの設置なども行いました。

【サインボード】
新たなデザインを起こし、機能的で使用者の気持ちに配慮したものを設置しました。

【スロープ】
1/12勾配の十分な広さ・長さ・視認性を考慮し、あえて異なる床色を採用しました。

【ロッカー】
社員一人一人にロッカーを準備しました。ロッカーの配置と高さは、車いす使用者でも出し入れしやすいよう、低い位置に、上下2段の立方形状を設計しました。

*1発達障害、知的障害、精神障害などの障害者が、外部の音や視線を遮断することでパニックを防ぐためのスペース。

何よりうれしかったのは、特例子会社で働く社員からの信頼と理解を得たこと

聞き手

ハウズパークの取り組みについて、社内の反応はいかがでしたか?

ハウズパーク内部

試験運用から本格運用まで期間を置いた大きな目的は、多くの社員、特に役員の理解を得ることでした。ハウズパークを「見て」「使ってみる」という体験を役員にしてほしかったのです。

弊社12名の執行役員全員がハウズパークに集まりました。そのうち開発系の4~5名の執行役員が「このインクルーシブデザイン手法を使って、どのように社会を良くしていくのか?」をコクヨKハートの社員全員の前で宣言し、動画は社内のイントラネットで全社に公開しました。

結果的には、認知度を高め、社員全員が自分のこととして、このダイバーシティ&インクルージョン&イノベーションに関わっていくことができるようになりました。コクヨには、長期ビジョンに基づいて頑張った現場の活動を表彰する「アワード」という取り組みがあり、今回のハウズパークが多くの表彰案件のなかから大賞を受賞しました。

何よりうれしかったのが、最終的にコクヨKハートの社員たちが取り組みに対して、すごく理解をしてくれたということです。最初は懐疑的で一部反発もあったようですが、徐々に「私たちの要望に会社は本気で応えてくれる」と信頼してくれるようになったのです。経営の本気度もそうでしたが、コクヨの一員として、そして「一緒に価値を作っていく仲間」として理解してくれたところが、とてもうれしかったです。

障害者を取り入れたオフィス作りにハウズパークの知見を生かす

聞き手

ハウズパークで実現されたインクルーシブデザインの手法は、今後どのように活用されていていくのでしょうか?

1つは、オフィスを作る手法の中にインクルーシブデザインを入れていくということです。今後、障害者の法定雇用率が段階的に引き上げられることが決まっています。そうなると、障害のある方も働きやすいオフィス作りをしていく必要があります。そういう状況になった時に、今回のハウズパークの経験は生きると思いますし、私たちは提案していきたいと思っています。

コクヨが届けられない人に、ミライロの力を借りて届けたい

聞き手

今後、ミライロへの要望などがあれば教えてください。

井田様

私たちはダイバーシティ&インクルージョン&イノベーションを実践していく中で、インクルーシブデザインで作った商品を、コクヨのマーケティングでは届かない人たちにお届けしたいと思っています。

そのためには、ミライロIDのようなインフラも利用させていただきながら、今後は、より持続可能なリレーションシップを目指して、一緒にビジネスができたらいいなと考えています。

例えば、ミライロIDを活用したコクヨのインクルーシブデザイン商品を多くの方にお届けして、多くの方が働く・学ぶ・暮らすことに社会参画いただく機会を提供し、社会のバリア解消に貢献できたら、ステキだと思います。

聞き手

本日は貴重なお話をありがとうございました。