積水ハウスならではの“おもてなし”をカタチに

積水ハウス株式会社

積水ハウス株式会社(以下、積水ハウス)は、“「わが家」を世界一幸せな場所にする”というグローバルビジョンのもと、人生100年時代にふさわしい新たな住まいの価値創出を目指しています。その実現に向け、「住」を中心に据えながら、ハード・ソフト・サービスを一体的に提供するグローバル企業への進化を加速させています。

こうした活動の一環として、展示場をはじめ、ショールームや体験型施設(Tomorrow's Life Museum)など、お客さまをお迎えする全施設において、障害のあるお客さまが安心してお越しいただける環境作りを目指し、「UD(※1)サービスハンドブック」を制作。続けて、全国の住宅展示場で「UDサービス実習」と呼ばれる実践型研修を開始し、サービス品質の向上に努めています。

今回の取り組みの背景と具体的な取り組みについて、人事総務部 障がい者雇用推進室のご担当者さまにお話をうかがいました。

※1 UD ユニバーサルデザインの略

積水ハウスイメージ画像

現場対応のばらつきを是正し、全社で接遇の質を底上げ

聞き手

はじめに「UDサービスハンドブック」策定の背景について教えてください。

背景には、住宅を提供する企業としての社会的責任、そして2024年の改正障害者差別解消法への対応があります。住まいはお客さまの「生活の基盤」であり、「一生住み続ける場所」です。だからこそ、誰もが安心して暮らせる環境を整えることは、弊社にとって欠かせない使命です。

特に住宅展示場は、お客さまが最初に私たちと接する重要な接点です。把握できている範囲だけでも、障害のあるお客さまは年間147組もご来場いただいていることがわかりました。

ここでの接遇において、一貫した高品質なサービスの提供は不可欠です。しかし実際には、拠点ごとに対応の差があり、事例が共有されにくく、属人的な対応にとどまっている課題がありました。

人事総務部障がい者雇用推進室辻野 健一 さま

人事総務部
障がい者雇用推進室
辻野 健一 さま

また、障害者差別解消法の改正という社会的な節目は、私たちがこれまで積み上げてきた取り組みをさらに前進させる絶好の機会であると捉えました。

社内にはすでに一定の基盤があり、実践的な活動を積み重ねてきた手応えもあります。このタイミングを活かし、接遇の質を一層高めることで、全社一丸となって次のステージへと進んでいけると考えました。

客観性と専門性が共創の決め手に

聞き手

ミライロとの共同制作に至った経緯を教えてください。

以前からマニュアル整備に向けた動きはあったものの、体制の変化や日々の業務との兼ね合いから、本格的に着手するには至っていない状況が続いていました。

そうした中、プロジェクトを前に進めるためには、限られた社内リソースだけで対応するのではなく、外部の力を借りることが有効だと考えました。また第三者の視点を取り入れることで、より客観性と専門性を備えた内容とするため、ミライロに協力を依頼しました。

外部の専門的な知見と伴走体制により、これまで足踏みしていた取り組みが具体的に動き出すきっかけとなりました。

ミライロとは以前から、社内で実施しているダイバーシティ交流会(障害のある従業員とその上司・同僚の交流・学びの場)での講演やミライロ・サーベイ(※2)の実施、聴覚障害のある従業員への情報保障に関する社内普及に向けた取り組みを通じた関わりがありました。

今回の「UDサービスハンドブック」の共同制作は、こうした連携の延長線上にあるものです。

※2 ミライロ・サーベイ 民間事業者における障害者対応の現状を可視化し、合理的配慮の提供に向けた取り組みをサポートする調査ツール

最も重視したのは、障害のある当事者の声

聞き手

プロジェクトの具体的な進め方や工夫について教えてください。

積水ハウスUDサービスハンドブックのイメージ画像

最も重視したのは、“障害がある当事者の声”を反映することです。ハンドブックを単なるマニュアルにとどめず、現場で活きる実践的な指針とするためには、日常の中で課題やニーズを実感している当事者の視点が不可欠だと考えました。

この想いのもと、全社横断型のワーキングチームを結成。「UDサービスハンドブック」の制作にあたっては、視覚・聴覚・上下肢に障害のある従業員10名がプロジェクトメンバーとして参画しました。秋田、仙台、宇都宮、東京、大阪、岡山など、全国各地のメンバーがオンライン会議や現地調査に参加し、積極的に意見を交わしました。

現地調査写真 Tomorrow's Life Museum関東にて

※現地調査 Tomorrow's Life Museum関東にて

従業員の自律的な参加の背景には、障害のある従業員同士がつながる「ダイバーシティ交流会」の存在があります。全国の各拠点で働く障害のある従業員の関係づくりと職場環境の改善を目的として、2015年に始まり、現在は全国規模に拡大。研修やワークショップとも連動し、主体的な取り組みを後押ししています。

今回参加したメンバーには日々感じている課題やニーズを、当事者自身の言葉で共有してもらい、「サービスを受ける側」と「サービスを提供する側」双方の視点から実践的な議論を重ねていきました。

会議体制においては、誰もが参加しやすいアクセシブルな仕組みを整備。これにより、多様な意見が集まり、内容の精度と説得力が大きく向上しました。また、現地調査では、遠隔地のメンバーが携帯端末を通じて中継参加できる体制を構築するなど、参加のしやすさにも配慮しました。

現地の実情をリアルタイムで共有できたことでチーム全体の議論はより活性化。回を重ねるごとに相互理解が深まり、率直で建設的な意見交換ができる関係性が育まれていきました。

<ワーキングメンバーの声>

視覚障害のある従業員の写真
現地調査では、日頃感じていても言葉に出来なかった不安や困り事を具体的に発言する事ができ、嬉しさと開放感を味わえました。展示場内では玄関や階段など段差が多いことや、雨の日は白杖と傘を持っての移動には不安があります。当事者として助かる細かなポイント、嬉しかった経験を伝え、安全に配慮しつつお客さまに気持ちよく過ごしていただけるよう、UDサービスハンドブックに想いを込めました。展示場や現場見学会、イベントに行きたくても身体的な理由で遠慮してしまうお客さまが減り、積水ハウスグループに安心してお任せいただけたら幸せです。(視覚障害のある従業員)
聴覚障害のある従業員の写真
私は普段、賃貸部門の事務職として勤務しているため、展示場で接客を見たり受けたりした経験はありませんが、障害のあるお客さま役としてロールプレイングに参加し、不安だと思う点・こうしてくれたら嬉しい点を率直に伝えました。休憩時間には「障害のあるある」の話で盛り上がり、日頃感じていても言いづらかった困り事を打ち明けることができました。そんな声をミライロ、ワーキングメンバーでまとめ、形にしたのがUDサービスハンドブックです。1人でも多くの人が積水ハウスになら住まいづくりを任せても大丈夫と思ってもらえるよう願いを込めました。(聴覚障害のある従業員)
下肢障害のある従業員の写真
私は車いすの生活になって30年以上になります。これまでいろいろなところに出かけ、そこで多くの方々にサポートをしていただきました。サポートの仕方はそれぞれで、怖かった経験もあり、受け手の感じ方もそれぞれです。もちろん、障害の程度にもよります。大切なのは思い込みで判断せず、答えは相手にあることを念頭に、バリアを取り除く要素と工夫をUDサービスハンドブックに込めました。実際に体感するとさらにもっと理解が深まると思います。(下肢障害のある従業員)
こうしたプロセスを通じて、UDサービスハンドブックは、より現場の実態に即した内容となり、現場スタッフの理解と実行を促す、説得力と深みのある仕上がりとなりました。

接遇の質向上と従業員の意識に変化

聞き手
UDサービス実習を実施した展示場における従業員やお客さまの反応について教えてください。

ハンドブックの配布にとどまらず、実際の接客や対応に活かせるようにするため、「eラーニング」・「オンライン研修」・「幹部研修」を実施。さらに全国のお客さまをお迎えする全拠点での「UDサービス実習」もあわせて実施しました。これは、知識として理解するだけでなく、現場での実践力として身につけることを目的とした取り組みであり、従業員一人ひとりが“自分ごと”として捉え、行動につなげることを目指しました。

具体的には、ハンドブックに掲載されている内容を中心に、アイマスクを着用しての疑似体験や、車いすに乗って駐車場からの動線を確認するなど、実際の接客場面を想定した実習を行いました。

実習を通じて、多くの従業員がホスピタリティに対する意識の高まりを実感することができたようです。特に、障害のあるお客さま一人ひとりに合わせた「個別対応」の重要性を再認識し、実体験を通じて、より寄り添った提案が可能になったとの声が上がりました。

また「もっと早い段階でこのような内容を学ぶ機会が欲しかった」との意見も見受けられました。接客業務を担当していない従業員からも「日常生活においても役立つ知見であった」との評価がありました。

従来は、正しい対応方法が分からず個々の判断に委ねられていたことから、不安や迷いを感じていた従業員も少なくありませんでした。過去に対応を誤った経験を持つ従業員もおり、上司も必ずしも適切な対応を把握していない状況がありました。

今回、社内の従業員が主体的に参加しながら、外部の専門的知見を有するミライロの監修を受けたことは、現場における安心感や納得感の向上に繋げることができました。

研修を行っている様子

一過性で終わらせない取り組みへ

聞き手
今後の展望や取り組みについて教えて下さい。
 (左から)人事総務部 障がい者雇用推進室 室長 西原さま/辻󠄀野さま、ESG経営推進本部 ダイバーシティ推進部 長谷川さま

 (左から)人事総務部 障がい者雇用推進室 室長 西原さま/辻󠄀野さま、ESG経営推進本部 ダイバーシティ推進部 長谷川さま

これまで、UDサービスハンドブックの策定をはじめ、UDサービス実習やeラーニングの導入など、ハードとソフトの両面から接遇の質を高める取り組みを進めてきました。また、展示場の公式サイトでは「どのような配慮が可能か」を事前に確認できるよう情報を発信し、来場前から安心していただける環境づくりにも力を入れています。

こうした活動を一過性で終わらせることなく、段階的かつ継続的に取り組みを進化させていくことを目指しています。新たに入社した従業員をはじめ今後も定期的な研修を実施し、知識や意識の継続的なアップデートを図っていく方針です。

私たちは“「わが家」を世界一幸せな場所にする”というグローバルビジョンのもと、住まいを通してお客さまの人生に寄り添う存在でありたいと考えています。その実現に向けて、今後もハードとソフトの両面から、より高品質な空間とサービスの提供に取り組んでまいります。

聞き手
本日は貴重なお話をありがとうございました。