アクセシビリティに配慮したコミュニケーションガイドラインの策定

ソニー株式会社

ソニー株式会社(以下、ソニー)は、「世界中の人に感動を提供し続ける」というビジョンを掲げ、持続可能な事業運営の一環として「環境」「アクセシビリティ」「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)」の推進に注力しています。

現在、ソニーではインクルーシブな未来に向けて、誰もが自分らしく、そして、感動を分かち合える世界を目指して、製品、サービス、体験のアクセシビリティ向上を推進しています。このたび、自分たちの製品やサービス、取り組みを適切なコミュニケーションをもって届けたいと考え「コミュニケーションガイドライン」の策定に至りました。

今回は、このガイドライン策定に関する具体的な取り組みについて、サステナビリティ推進部門の皆さまにお話をうかがいました。

写真_ソニーイメージ画像

すべての人に開かれたコミュニケーションを目指して

聞き手

コミュニケーションガイドライン策定の背景について教えてください。

ここ数年、ソニーでは製品やサービスのアクセシビリティ向上に注力しています。具体的にはインクルーシブデザインの手法を取り入れ、障害のある方々に製品を検証していただいたり、開発検討の議論に参加していただいたりしています。

一方で、そのようなプロセスを経て発売された製品やサービスが増えていくにつれ、多様な方を想定したコミュニケーションの重要性が高まってきました。

これまでは、特にアクセシビリティに関連する表記や表現は担当者の経験や力量に委ねられてきました。しかし、現在ソニーではグローバルでアクセシビリティに配慮した製品、サービスを提供しています。個別の対応にも限界があるため、ガイドラインの策定に着手しました。

社内外のさまざまな場面での円滑な情報伝達を想定

聞き手

ガイドラインの具体的な内容について教えてください。

このガイドラインは、アクセシビリティ推進活動の一環として、社内外の円滑なコミュニケーションを支援するために策定された指針です。

さまざまな表現手段や媒体において、使用する言葉や表記方法、アクセシビリティに配慮が必要なお客さまへのサポート方法などをまとめています。

障害には、医学的な分類だけでなく、自身の認識によるものなど多様な視点があります。また、必要な配慮も人それぞれ異なるため、本ガイドラインは障害のある方々との対話を重ねながら作成しました。

使用する対象は、各種媒体で情報発信をおこなう部門の社員や、店頭・イベント・コールセンターなどで接客業務に従事する社員を想定しています。言語は、日本語版に加えて、米国や欧州の法制度や文化に配慮した英語版も用意しています。

画像_アクセシビリティ推進活動に伴う「コミュニケーションガイドライン」の表紙

※イメージです

<ガイドライン策定時に重視したこと>

  • 誰にとってもわかりやすい言葉を選ぶこと
  • 文化的・歴史的背景を踏まえた適切な表現の使用
  • 製品やサービス発表時などにおける一貫性のあるメッセージの発信
  • 障害のある方だけでなく多様なユーザー層への配慮

ミライロとの協業の経緯と感想

聞き手

アクセシビリティ領域において、国内でも先進的に取り組みを推進されていますが、内製化ではなく、なぜ外部との協業を選択したのでしょうか?

アクセシビリティの取り組みは、透明性が重要だと考えています。内製化すると視点が偏りがちになり、透明性の確保が難しくなります。結果として、独りよがりの取り組みになりやすいと考えています。

そのため、ガイドラインの策定にあたり、社内だけで作成するのではなく、外部の専門家や障害がある方々のコミュニティと連携することが必然でした。さらに、今回のグローバルな基準に沿ったガイドラインを整備するためには、海外の法律や事例に詳しい専門家の存在が不可欠でした。

その中で、ミライロは単にガイドラインを作るのではなく、調査・分析を踏まえて、戦略的に構造化から進めていかないかと提案してくれたことが大きな決め手となりました。

実際にプロジェクトを進行する中で、ミライロの卓越したコンサルティング力と深い知見が大いに助けとなりました。また、スタッフの皆さんは単なる専門家にとどまらず、優れたコミュニケーション能力と提案力を兼ね備え、我々の意図を的確に汲み取りながら、円滑にプロジェクトを進めてもらうことができました。さらに障害のある方々とのコミュニティとつながりがあることも魅力的な点でした。

いま振り返っても、このプロジェクトはミライロ抜きには実現できなかったと感じています。当初、社内でも標準化は実現が難しいのではないかと言われていましたが、ミライロの献身的なサポートにより完成へと至ることができました。

<ミライロとの取り組み実績>
  • コミュニケーションガイドラインの策定
  • 製品開発における各種調査(Web調査、インタビュー調査、行動観察調査)
  • ミライロIDを活用した情報発信
  • ユニバーサルマナー検定の受検
  • 遠隔文字通訳をはじめとした情報保障 など  
(写真)左側が富田様、右側が武上様

トップマネジメントの理解と支援

聞き手

アクセシビリティを社会的責任にとどまらず、企業の重要な戦略として位置づけるに至った背景には、どのような経営判断があったのでしょうか?

ソニーでは、アクセシビリティを追求する上で、多様なユーザーのニーズを理解し生かす必要があると考えています。当事者と共に検討し、その声を反映するインクルーシブデザインを製品の商品化プロセスに取り入れていきます。

アクセシビリティは一部の部門だけで取り組むものではなく、組織全体の文化として根付かせることが不可欠であり、全社的な意識改革が推進の鍵となります。

そのため、開発段階から当事者の意見を取り入れる「インクルーシブデザイン」の手法を商品化プロセスに取り入れ、これまで見過ごされがちなニーズへの対応を進めています。

また、ビジネスとしてアクセシビリティを成り立たせるには、コスト意識を持ちながらも、長期的な視点での取り組みが重要です。

障害がある方の視点から見過ごしてきた気づきを得て、障害の有無に関わらず誰もが使いやすい製品やサービスを目指すことが持続可能な成長につながると考えています。

このような考えのもと、トップマネジメントの理解と支援を得ながらアクセシビリティをソニー全体のモノづくりに反映するよう努めています。

知的好奇心が生む、さらなるイノベーションへの期待

聞き手

ガイドラインの運用開始後、どのような反響がありましたか?

現在、段階的に導入を進めています。その過程で、「言葉の使い方に対する意識が高まり、社内での対話のきっかけになった」という声が多く、アクセシビリティに関する議論が自然に生まれるようになりました。

アクセシビリティに関する意識向上は、単なる施策に留まらず、企業文化そのものを変える可能性があります。新しい視点を取り入れ、多様なユーザーの声を反映させることが、これまでにない製品やサービスの開発につながる可能性を秘めています。

今後も、ガイドラインを活用しながら、より包括的なアクセシビリティの実現を目指し、企業としてさらなるイノベーションを生み出すことに期待しています。

アクセシビリティ推進の新たなステージへ

聞き手

最後に今後の展望についてお聞かせください。

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ガイドラインを策定したことで、一人ひとりがアクセシビリティについて考えるきっかけになればと考えています。ガイドラインを遵守することも大切ですが、それ以上に障害について理解し、どう行動し、どう言葉に落としていくかを、この取り組みを通じて考えていきたいと思います。

サステナビリティ推進部門 アクセシビリティ領域
担当部長 武上 有里 様

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このプロジェクトを通して「より良い製品やサービスを創りたい、届けたい」というマインドをグローバルで社員一人ひとりがもっていることを再認識しました。現在のガイドラインがベストではなく、今後もフィードバックを得ながら最適化を進めていきます。議論が活発におこなわれ、社会全体のアクセシビリティが向上することを願っています。

サステナビリティ推進部門 アクセシビリティ推進室
アクセシビリティ プロジェクトリーダー 富田 実 様

私たちが目指すのは、すべての人が安心して利用できる製品やサービスを提供すること。そのためには、障害のある方だけでなく、すべての人にとって分かりやすいコミュニケーションが不可欠です。今回のガイドライン策定をきっかけに、より多くの方々と共にアクセシビリティ向上に取り組んでいきます。

今回のプロジェクトを通じて、ミライロと共にアクセシビリティ推進の新たなステージへと踏み出しました。これからも、すべての人が快適に利用できるものづくりを進めていきます。

聞き手
本日は貴重なお話をありがとうございました。