TOTO株式会社は、さまざまな視点からユニバーサルデザインを研究し、すべての人が利用しやすい製品を日々追求しています。
ユニバーサルデザインの取り組みをさらに進化させるため、新たなコンセプトを打ち出し、実現に向けて動き出しています。
当社もお手伝いをさせていただいた新しいコンセプトづくりに関して、コンセプトの見直しを行なった背景や製品開発の取り組みについて、UD推進グループのご担当者様にお話をうかがいました。
きれいで快適な「まいにち」をすべてのひとのあたりまえに。
TOTO株式会社
TOTOのユニバーサルデザイン
聞き手
TOTOにおけるユニバーサルデザインの歴史を教えてください。
TOTO公式サイト
「ユニバーサルデザインBook」より
TOTOは100年をこえる歴史の中で「健康で文化的な生活を提供したい」との強い思いで衛生陶器の普及を目指し、さまざまな取り組みを行ってきました。
1960年代からは車いす使用者をはじめ障害のある方々にも配慮した商品の開発を開始しました。その後90年代に入り、ご高齢の方々のニーズにも目を向け研究・開発を進めました。
2000年代に入ると障害者、高齢者への配慮を「ユニバーサルデザイン」として統一し、すべての人々が利用しやすい製品づくりに舵を切りました。
このような取り組みによって、TOTOは多様な方々にとって使いやすい製品を提供し、社会全体の快適さと利便性を向上させる役割を果たしています。
当たり前になったが故に“TOTOのユニバーサルデザイン”の意識が薄れてきた
聞き手
コンセプトを見直した背景を教えてください。
UD・プレゼンテーション推進部
UD推進グループUD担当部長
本橋 毅 様
弊社は2004年にTOTOグループの経営理念体系を整備し、その中で「ユニバーサルデザイン」を事業におけるミッションの1つとして位置づけました。ユニバーサルデザインの要求仕様を盛り込んだ商品が次々に登場し、ものづくりのステップにおける仕組みも定着しました。
15年が経ち、お客さまニーズの多様化や共生社会の実現に向けた機運の高まりなど、時代にあわせた社内外統一のコミュニケーションの進化を目指して、ユニバーサルデザインのコンセプトをリニューアルしました。
当時、社内ではユニバーサルデザインが仕組化して当たり前の取り組みとなったが故に「TOTOのユニバーサルデザイン」と言う意識が薄れてきていたことも背景にありました。
危機感を抱いた販売部門の責任者から「TOTOのユニバーサルデザインについて社内外の環境変化に対して不足している部分が無いか、自らを客観的な視点で点検してみないか」という提案がありました。点検にあたっては社内のUD部門だけでなくユニバーサルデザインの企業活動に詳しい社外の数社に連絡し、その中の1社としてミライロにも初めて連絡をとらせていただきました。
“What’s UD?”から“ Why UD?”へ
聞き手
コンセプト変更のポイントを教えてください。
TOTO公式サイト
「ユニバーサルデザインBook(TOTOがUDを通じて創造する価値)」より
最初の段階では社内のUD部門から見た課題感と社外から見える課題感が異なり、「何が問題なのか?」や「何を変えるべきなのか?」といった議論が続き、なかなか自己点検が進まずコンセプトの柱が決まりませんでした。
これまでのTOTOのユニバーサルデザインのコンセプトメッセージには「全ての人にとって使いやすいものを作る」というユニバーサルデザインの基本的な精神が書かれていました。
TOTOのユニバーサルデザインの点検にあたり、2018年にコンペを開催した際、ミライロからはTOTOのユニバーサルデザインに対して「弱いところ」「強いところ」という形で客観的に評価をいただいた上で、とても心に残る提案をしていただきました。
基本的な考え方には同意いただきながらも「ユニバーサルデザインとは何か(What’s UD?)に重きが置かれていて、何のためにというよりは、どんな物を作るかが主体となり、少し内向きな印象を受ける」
「TOTOはユニバーサルデザインを通じてどのような社会的価値を提供しようとしているのか、その背後にある理念や目的は何か(Why UD?)を表現することが15年経過した現在、重要な視点ではないか」
つまり「What’s UD?」から「Why UD?」への転換という部分を新しいコンセプトの柱にするのはどうか、という提案がありました。
この提案を受けて「こういう言い方があったのか」と感心しました。「Why UD?」から発想することで、注目度を増してきていたSDGsともはっきりと結びつくものとなりました。TOTOは自社のユニバーサルデザインに関する考え方やビジョンについて点検・再考する契機を得て、ともすれば内向的な議論に陥りそうなところを外向的な視点に変えてくれたミライロにはあらためて感謝をしております。
聞き手
ユニバーサルデザインBookの冒頭にある『つくるって、人を思うこと』のコピーが印象的です。
UD・プレゼンテーション推進部
UD推進グループ グループリーダー
佐藤 敬子 様
コンセプトの点検を提案した販売部門の責任者は、TOTOのユニバーサルデザインの将来に切迫感を感じていました。コンセプトのリニューアルの際に「TOTOとして、何か強いメッセージを作る必要がある」という話になり、ミライロと共に作ったコンセプトを軸に広告代理店のコピーライターが生み出した一文が「つくるって、人を思うこと。」でした。
コピーを作っていただいた方には、実際にTOTOの工場の見学をしていただきました。その方は「努力し、技術を磨き続けている現場を見て『つくるって、人を思うこと。』というメッセージに結びついた」と話していました。「つくるって、人を思うこと。」のコピーには続きがあります。TOTOのものづくりに込める思いや姿勢が表現されていますので、ぜひ全文を読んでいただきたいと思います。
※TOTOのユニバーサルデザインに関する情報は下記をご覧ください
ユニバーサルデザインのサイト
ユニバーサルデザインBookのサイト
多様性と使いやすさの両立、未知なる可能性への探求
聞き手
製品開発において大切にしている視点があれば教えてください。
TOTOではユニバーサルデザインを議論する際に、縦軸を「使いやすさ(ユーザビリティ)」、横軸を「使えるお客様の範囲(アクセシビリティ)」という2つの軸で考えるようにしています。
お客さまのニーズはよりデザインがよく使いやすいものに進化し、世界にはまだ見ぬ多様な方々が存在し、その多様性は広がるばかりです。これに対して、縦軸と横軸で囲まれた面積をより広げるために新たな発想が求められています。
水を汲んで手を洗っていた時代から、蛇口ができ、ハンドルがレバーになり、そして自動水栓へと進化してきました。製品が進化することにより使いやすさが向上するだけでなく、これまで使えなかった人々も利用できるようになりました。
TOTO公式サイト「ユニバーサルデザインBook(UDサイクル)」より
こうした背景から、ユニバーサルデザインの取り組みは多様性を受け入れながら常に進化し続けています。
製品を開発する過程においては、障害のあるお客さまからニーズや困りごとをお聞きし、ユーザー検証を重ね、製品づくりに反映する取り組みを長年続けています。
ユーザー検証を行う際には、多くの障害のある方々との繋がりを有するミライロの協力も得ています。検証する内容に応じて、対象としたい当事者の身体状況をこまごまと要望させていただくのですが、該当する当事者を丁寧に探してきていただけるのはありがたい限りです。さまざまな障害を考慮し、幅広い方々に配慮した製品開発を行う上で、難しい要望にも丁寧に対応してもらえるミライロへは信頼と期待を寄せています。
ユニバーサルデザインの取り組みに終わりはない
聞き手
今後に向けて期待すること、取り組むべきことがあれば教えてください。
ユニバーサルデザインの取り組みはまだまだ課題が山積しています。さまざまなニーズに対応するためには、常に進化し続ける必要があります。
TOTOの製品は、障害のある方を含めた多様な方々のニーズに焦点を当てて綿密な検証と開発を重ねたものです。
こうした活動を通じて、多くの人々が利用しやすい製品としての信頼を積み重ねることができており、結果として採用されるケースが少なくありません。
私たちUD推進グループの重要なミッションの一つは、TOTOがどのようにユニバーサルデザインに取り組んでいるかを広く発信し、お客様がTOTOの製品を選ぶ際の基盤を築くことです。
ユニバーサルデザインに真剣に取り組む企業として、その取り組みを社会に広く発信し、理解と関心を今後も高めていきたいと考えています。
そして、すべての人が快適に暮らせる社会の実現のために、TOTOはこれからもユニバーサルデザインへの挑戦を続けていきます。
聞き手
本日は貴重なお話をありがとうございました。