「みんなと暮らすマチ」を支える新型ATMの開発プロジェクト

株式会社ローソン銀行

株式会社ローソン銀行は、ローソングループの銀行として、2018年9月の開業以来はじめて、ATMの新型機を開発しました。現在、全国のローソン店舗などで順次入れ替えを実施しています。

新型機の開発では「私たちは“みんなと暮らすマチ”を幸せにします。」というグループ理念に基づき、お客さまのニーズを踏まえたコンセプト開発、機能設計が行われました。

ユニバーサルデザイン視点を踏まえた筐体デザインを目指し、車いすユーザーの方の協力を得ながら進めた開発プロジェクトについて、ご担当者さまにお話をうかがいました。

画像 「ローソン銀行ATMがもっと便利になりました!」

 

開発段階からお客さまの声を反映

聞き手

新型ATMの開発プロジェクトについて全体像を聞かせてください。

今回の新型ATMの開発はローソン銀行が開業して以来初の試みであり、私たちにとって非常に重要なプロジェクトの一つでした。

プロジェクトは2020年度に始まり、議論を重ねながら、足掛け4年の時間を要しました。
私たちが新型ATMのコンセプトや機能を考える際に重視したのは「“みんなと暮らすマチ”を幸せにします。」というグループ理念です。この「みんな」は、障害の有無や国籍などは関係なく多様なお客さま全員を指します。 したがって、多様な方々のニーズへ応えるATMを目指した開発を進めることが必須であると考えました。

既存のATMを利用しているお客さまからは「デザインはちょっと古い感じがする」「テンキーの操作が難しい」「プライバシーが不安」といった声が届いていました。これらの声は、新型ATMの設計において非常に重要な役割を果たしました。

ローソン銀行には、お客さまの声に耳を傾ける文化があります。そのため、新型ATMの開発にあたり、これまでに寄せられたお客さまの声 を分析し、さらには障害のある方を含む多様なお客さまからも意見を収集しました。これにより、あらゆるお客さまが使いやすいATMを開発するための貴重な洞察を得ることができました。

ミライロの豊富な実績に期待

聞き手

ミライロに依頼した背景について教えてください。

写真 商品サービス部エキスパート矢口貴教様

商品サービス部
エキスパート
矢口 貴教 様

開発は、まずコンセプトの企画から始まります。未来の市場動向とお客さまのニーズ調査などを踏まえ、ATMで実現したいお客さまの体験を言語化したコンセプトを作りました。その後、ベンダー各社にコンセプトを伝え、各社から新型ATMの提案を受け取りました。

ベンダー各社からの提案は、お客さまの多様なニーズへの配慮も盛り込まれており、内容は良好でした。ただし、それはあくまでも設計者や開発者が障害のある方やご高齢の方の視点を想像した提案にすぎませんでした。

そこで、実際に障害のある方やご高齢の方が利用した際、本当にベンダーからの提案内容で十分なのか検証する必要があると考えました。そのため、インクルーシブデザイン視点を取り入れた製品開発の実績が豊富なミライロに協力を依頼し、プロジェクトに協力してもらうことにしました。

ミライロには、ユーザーテストに参加してもらう障害のあるモニター募集と調査設計等へのアドバイスを依頼しました。

正直、調査を行うまで、私自身、車いすユーザーの方がATMをどのように利用されているのかを分かっていませんでした。実際に車いすユーザーの方からもフィードバックをもらい、多くの気づきと学びがあったので、依頼して本当に良かったと感じています。

お客さまの声を生かした新型ATMの開発と改善

聞き手

具体的にどのような声が寄せられて、どのように開発へ取り入れましたか?

ミライロの協力も得て、障害がある方にはタイプの異なる試作機を実際に使ってもらい、ユーザーテストを実施しました。

新型ATMの原型となる試作機に対しては、「モニターが大きくて見やすい」「画面を低い位置で操作できる機能は良い」など肯定的なコメントが寄せられた一方で、「車いすユーザーも正面からアプローチできるように筐体下部にスペースがほしい」「非常ボタンの位置が高くて押せない」「手荷物を置くスペースがない」「発光体と自分の目線が合致して眩しい」「返却口の位置が低い」など、多くの課題もいただきました。

画像 ミライロリサーチの流れ

※専門の調査サービス 「ミライロ・リサーチ」

これらのフィードバックを新型ATMの機能やデザインに反映しました。
たとえば、車いすユーザーの方がATMに近づきやすいように筐体下部に蹴りこみを設け、足元に車いすでアクセスできる空間を設けました。操作面では、あらゆるお客さまが利用しやすいよう、ボタンや受話器の高さを工夫しつつ、非常ボタンは車いすユーザーの方でも届く位置としました。また、荷物や飲み物を置ける場所も設置して利便性の向上を図りました。

視認性も重要な改善点の一つで、ATM上部の看板には当行ATMのロゴを車いすユーザーの方でも筐体の前から見える位置に配置しました。画面の角度は視認しやすいよう、反射を避けるために直角に近い角度を選びつつ、プライバシーを保護するために他人に画面内容が見られにくいように調整しました。

セキュリティ面では、ATMの画面に顧客カメラで捉えたお客さまと背後の映像を表示し、常に監視していることがわかるようにしたことや、後方確認ミラーによって、利用者が自身の背後の状況を確認できるようにしました。これにより、防犯効果を高めるとともに、詐欺行為への抑止も図っています。

このように、ミライロや障害がある方々の協力もあり、ATMを利用するすべての人にとっての利便性と安全性を高めることができました。

4つの価値体験を提供

聞き手

完成した新型ATMのコンセプトや特長について教えてください。

お客さまへの調査などで把握したニーズを踏まえて、新型機の利用を通じて、以下4つの価値体験をお客さまに体感していただくことを目指して開発しました。

①やりたいことが簡単に
お客さまのニーズを捉えた機能、シンプルなUI(ユーザーインターフェース)設計

画像 スムーズにお取引ができる画面レイアウト。バーコードやICの読み取りが可能に。

②誰でも便利に使える
障害のある方や高齢の方、外国のお客さまも不便なく使える

画像 奥行、角度、足元の形状、低位置表示への切り替え、杖置き、ドリンクホルダー、荷物かけ

③安心して取引できる
不安を感じることなく、安心して取引できる

画像 見えない、見られない安心感。カメラとミラーで背後も安心。

④愛着が湧く
日常に溶け込んだプロダクトとして、10年後も変わらず、愛着を持ってご利用いただける

画像 生活に寄り添う温かみのあるデザイン

 

新しい便利の実現へ

聞き手

今後の展望についてお聞かせください。

写真 ご担当者様

今後、新型ATMは、数年かけて既存のATMと入れ替えていく予定です。また、近年ではローソン以外にスーパーなどでもATMを設置してほしいとのご要望をいただいており、社会インフラとしての役割が拡大していることを実感しています。

今後もローソン銀行は、お客さまの声に耳を傾けながら、次世代への技術的な進化を図り、より多くの人々にとって使いやすいATM環境を提供し続けたいと思います。

聞き手

本日は貴重なお話をありがとうございました。