あとの人のために、橋を架ける。 創立150周年の神戸女学院が「心に残る学び」に選んだユニバーサルマナー

学校法人神戸女学院

業種:

教育機関

従業員数:

301~1,000名

1875年の創立以来、キリスト教主義に基づく教育を続けてきた神戸女学院。150周年記念メッセージ「Bridging Generations ~未来を生きる人たちのために。~」に込められた想いのもとで選ばれたのが、「心に残る学び」でした。

ユニバーサルマナー検定を受けた学院生は、「支援を受ける人と支援をする人を分けて考えていた自分」が変わったと語ります。
150年にわたり受け継がれてきた理念と響き合うこの学びは、何をもたらしたのでしょうか。ご担当者お二人と、在学生のお二人にお話をうかがいました。

写真_取材にご協力いただいた皆さま

<お話をうかがった皆さま>
・総務人事課 北村 紀代美さん
・理事長・院長室 松永 千香さん
・文学部総合文化学科4年 大橋 ほなみさん 
・心理学部心理学科2年 前川 悠月さん 
※所属・学年は取材時点(2026年6月)のものです
※記念事業をパートナーとして推進してこられた大日本印刷株式会社のご担当者さまにも同席いただきました
(創立150周年を迎えた神戸女学院は、記念事業の一環としてユニバーサルマナー検定を取り入れました)

神戸女学院にとっての多様性理解 ―「愛神愛隣」という土台

聞き手

はじめに、神戸女学院の教育理念についてお聞かせください。

(北村さん)「一言で言うと、学院標語である『愛神愛隣』です。神を愛し、隣人を自分のように愛するという聖書の教えを土台に、他者への共感と、自分の役割を果たす人格の形成を重視しています。大学にはキリスト教主義、国際理解、リベラルアーツ教育という三つの柱があり、その全てが『共感性の高い人格への成長』という大学のミッションにつながっています」

聞き手

変化する社会の中で、教育機関として果たすべき役割についてどのようにお考えでしょうか。

(松永さん)「本学はアメリカから来た宣教師によって創立された学校で、創立当初から『自分のためにではなく、他者のために(Non sibi)』という想いがずっと語り継がれてきました。社会が急速に変化する中で、変わって良いものと変わらないものを見極める力はとても大切です。けれども、この想いは神戸女学院にとって変わらないもの。ユニバーサルマナーの『自分と違う誰かのために』という考え方と近いところがあると感じたことが、導入のきっかけになりました」

聞き手

教育理念そのものは変わらない。一方で、その伝え方や学びのかたちは時代に合わせて変わって良い。この想いの中に、ユニバーサルマナーの学びを位置づけてくださったのですね。

導入の背景 ― 創立150周年記念事業に「心に残る学び」を

聞き手

ユニバーサルマナー検定についてはどのようにお知りになったのですか。

(北村さん)創立150周年記念事業の検討の過程で知りました。事業パートナーの大日本印刷とともに神戸女学院として発信するメッセージを固めていく議論の中で、「どんなことに取り組むか」という問いからユニバーサルマナーが挙がりました。ちなみに、記念事業の根底となる150周年記念メッセージは、神戸女学院の歴史を紐解く中で出会ったキーワード「Bridge」に由来しています。

(松永さん)「第5代院長であるC.B,デフォレスト先生は、未来を担う若者たちのために『橋』を架けることの大切さを語られています。また、先生が紹介された逸話の中に、橋を築く職人が『この橋は自分のためではなく、後の人のためのものだ』と語る場面があります。こうした考え方に着想を得て、『Bridging Generations~未来を生きる人たちのために。~』というメッセージを設定しました」

(北村さん)「当初、記念事業の多くは、建物をはじめとする物質的な計画が中心となっていました。その中で、何か学生の心に残るものができればと考えていたんです。ユニバーサルマナーは、特別な道具や環境が要るわけではなく、日々の行動の中で誰もが体現できるもの。家でも、通学中でも、アルバイト先でも実践できる学びになると思いました」

聞き手

教育理念との親和性の高さと、150周年という節目。その二つが重なったご縁なのですね。その取り組みは学院全体へと広がり、現在では在籍する高校生・大学生全員が3級を取得されています。

写真_ユニバーサルマナー検定受講の様子

 

学生の変化 ―「支援する人・される人」の境界が溶けていく

聞き手

ユニバーサルマナー検定での学びは、どのような変化をもたらしたのでしょうか。ここからは、在学生お二人に伺います。

「特定の誰かのための知識」ではなかった
心理学部2年の前川さんは、受検前の自分を振り返りました(3級を受検)

(前川さん)「検定を受ける前は、特定の誰かに向けられた知識を学ぶ場だと思っていた節があったんです。ですが、1年生のときに受講してみて、社会に生きる誰もが心地よく生きるための知識を学んでいるんだと感じました。それまでの私は『支援を受ける人』と『支援をする人』を分けて考えてしまっていた。でも、全ては地続きで、私も誰かから支援を受けているし、知らず知らずのうちに助けていただいている。相互補完的な関係の中で生きているんだと、考えが変わりました」

 「障害のある方に生きにくさがあるのではなく、社会の環境や人の意識の中にバリアがある、というお話に考えが改まりました。階段は歩く人には便利なものですが、車いすユーザーやベビーカーを使う方にとっても少しの段差がバリアになる。困っている人がいるかもしれないという想定を忘れずに、関心を持って毎日を生きる。電車の中でも、まちを歩いているときでも、アルバイトをしているときでも、いろんな瞬間にきっかけがあって、それを自分の学びにできるかどうかは自分にかかっているんだと気づきました」 

聞き手

「障害の社会モデル」の考え方を自分事として引き寄せてくださったのですね。

「間違っていたというより、合っていなかった」― JR三ノ宮駅での朝
そんな前川さんには、忘れられない経験があります。JR三ノ宮駅で、白杖を使う方に声をかけたときのことでした。

(前川さん)「点字ブロックが階段の方に続いていたので、『目が見えている私』の視点で、階段で降りるのが良いはずだと考えて、その方を誘導してしまったんです。するとその方から『エスカレーターを使いたいんです』と。たとえ点字ブロックが敷かれていても階段はが正解という訳ではないのですね。ご本人が無事にエスカレーターに乗られたのを見届けたとき、『相手の立場に立って考える』ということを頭では理解していても、本当にできていたわけではなかったと痛感しました。間違っていたというより、その方には合っていなかった。想いは人によって違うのだと、強く感じた出来事でした」

聞き手

善意も、ときにはお相手の望みとすれ違ってしまうことがあります。そのすれ違いを「失敗」で終わらせず、次の行動につなげる視点こそ、ユニバーサルマナー検定が手渡そうとしているものです。

「見守る」という距離感
文学部4年の大橋さんも、受検前後の変化を語ってくださいました。(2級・3級を受検)

(大橋さん)「以前は、障害のある方が困っていそうなときに声をかけたい気持ちはあっても、相手にどう受け止められるのかという戸惑いや不安がありました。検定でサポートの仕方を具体的に学んだことで、『自分にはできる』と自信につながり、声をかけやすくなりました。誰もが助けを必要としているわけではないので、本当に助けが必要かをまずは見守って、何かあったらすぐサポートできる距離感でいよう、という意識を持つようになりました」

声をかけて断られた経験も、今では前向きに受け止められるといいます。

(大橋さん)「電車で席をお譲りしようとして、断られたことがあります。でも、『断られたから声をかけなければよかった』ではなく、『その方には必要なかったんだ』と受け止める。ユニバーサルマナー検定を通して、いろんな思いの人がいると知ったからこそ、それでいいと思えています」

(大橋さん)「アルバイト先の飲食店に小さな段差があるので、必ず『お足元に段差がございますのでお気をつけください』と声かけをするようにしました。ご高齢の方かどうかに関係なく、ひと声を意識するだけで変わることがあると分かったんです。大学の授業で発表資料をつくるときも、誰もが見やすい文字の大きさや表現の仕方を意識するようになりました」

3級から2級へ ― 時間とともに熟成する学び
3級にとどまらず2級まで受検された大橋さんは、その理由をこう話します。

(大橋さん)「1年生のときから2級は気になっていたのですが、試験もあるし難しそうで、一度ためらったんです。その後、再び2級受検の案内があった際に、3級よりもっと深く学べること、車いすの実際の使い方なども学べること、費用面でも学院の後押しがあることがありがたくて、受検を決めました。皆さんの支援や想いで成り立っている取り組みだと知り、本当にプライスレスだなと感じています」

そして、学びの価値は時間とともに深まっていったと言います。

(大橋さん)「検定を取った直後は、すぐに実感が湧かないかもしれません。でも、その後の1、2年でいろいろなものを見てきた中で知識が熟成されて、物の見方が変わってきたんです。学生のうちに学べるのは本当にすごいことだと思います」

写真_インタビューの様子

学びを実践の場へ ― 西宮市との連携

聞き手

期待どおり、学外でもユニバーサルマナーを発揮していらっしゃる学院生の姿をどのように見ていますか。

(松永さん)「心からの喜びですね。学院としても実践の場として、西宮市の皆さまのご協力のもと年に数回、市内イベントに参加させていただいています。最初は市の管理職の方たちへ説明を行いユニバーサルマナーがどういうものかをご理解いただきました。『ボランティアをさせてほしい』ではなく、『こういう視点で何かお手伝いできることはありませんか』というご提案をさせていただいたことで、受け入れていただきやすかったのだと思います」

聞き手

2025年10月に行われた神戸女学院創立150周年記念式典では、大橋さんと前川さんも来場者の案内誘導として参加されたのですね。

(大橋さん)「実践することは難しさもありました。でも、直接『ありがとう』の言葉をいただけることがすごくうれしいですし、実際に何を求められているのかを振り返ることができ、実践あってこそだと感じました」

(松永さん)「2026年夏には、西宮市文化振興財団が主催するイベントにも参加させていただく予定です。期待される役割を考えると勉強不足なのではないかと不安もありましたが、ユニバーサルマナーの『自分と違う誰かの視点に立って、向き合う』ために話を進めているところです。」

写真_ボランティアの様子

これからの展望 ― ひとりひとりが、よい社会の担い手に

聞き手

記念事業として始まった学びを、神戸女学院はどのように育てていきますか。

(北村さん)「今日、お二人の話を聞いて、検定での学びが大きな意義と広がりを持つものになっていると感じました。こうした気づきや学びが、ほかの生徒や学生たちにも広がっているのであれば、とても嬉しく思います。」

学生のお二人にも、学びをこれからどう生かしていきたいかを尋ねました。

(前川さん)「検定を通して得た知識は自分の財産です。知らないことはできないし、しようとも思えないもの。車の免許を持っていない私は、いま運転しようと思えないのと似ているかもしれません。この知識があることで、これからの人生で出会える人の幅が広がり、人との関わりの中で味わえる喜びの種類が増えるんじゃないかなと考えています」

(大橋さん)「私は、いかに普段の生活の細かいところで活かしていけるかだと思っています。まずは、意識を持つことが大事です。相手を理解することで、その人との関わりやコミュニケーションがより豊かなものになる。これからもこの気持ちを大切にしていきたいです」

そして、この学びと神戸女学院の150年の歴史を、こんな言葉で結びつけてくださいました。

(前川さん)「1年生の私は、どんな想いでこの講座が開かれたのか、何も知らずに受けていました。恵まれた環境をただ享受するだけでなく、自分が得たものを還元してこそ、学習のループが始まる。誰かに教わって、また私が誰かに教える機会があったら伝えていく。そうやって続いてきたからこそ、神戸女学院の150年があるのかなと、今日、本当に思いました」

聞き手

最後に、本記事の読者やステークホルダーの皆さまへメッセージをお願いできますか。

(北村さん)「『愛神愛隣』のもと、自分で考えて行動すること。そのうえで、一人ひとりが他者と支え合いながら社会に貢献する力を育んでいきたい。卒業生一人ひとりが、多様な人々とともに生きる、よい社会をつくる担い手となってほしいと願っています」

創立当初から変わらない「自分のためだけではない」という想い。その土壌の上で、ユニバーサルマナーの学びは、世代から世代へ手渡される文化として受け入れられました。「あとの人のために、橋を架ける」。神戸女学院の150年の歩みと響き合うこの言葉を、お二人の学生が自らの言葉と行動で体現していたことが、何より印象的な取材となりました。