「当たり前を疑う」から始まる、グループ全体のDE&I推進

豊田通商株式会社

業種:

卸売・商社

従業員数:

5,001名~

豊田通商株式会社(以下、豊田通商)は、「未来の子どもたちにより良い地球を届ける」というミッションを掲げ、グローバルに事業を展開する総合商社です。同社はこのミッションのもと、多様な人財が輝く唯一無二の存在(ビジョン)「Be the Right ONE」を目指しています。

その土台作りとして、2014年度から約10年にわたりダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(以下、DE&I)を推進してきました。直近では特例子会社・豊通オフィスサービス株式会社(以下、TOS)による「トスWork」、本社オフィスのユニバーサルデザイン調査(以下、UD調査)、ユニバーサルマナー検定のグループ浸透など、ハード・ソフト両面で取り組んでいます。

根底にあるのは「当たり前を疑う」姿勢。グループ全体へ多様性理解が根づく道のりを、豊田通商人事部とTOSの皆さまにうかがいました。

写真_DE&I推進を担当する皆さま

 DE&I推進を担う皆さま

 

ミッション・ビジョンを起点に、唯一無二の存在を目指す

聞き手

豊田通商グループが掲げるミッション・ビジョンと、DE&Iのつながりを教えてください。

私たちはミッション、「未来の子どもたちにより良い地球を届ける」を掲げ、唯一無二の存在を目指すビジョン「Be the Right ONE」に向かっています。このビジョン実現の「土台」となるのがDE&Iです。多様な背景を持つ方々が安心して力を発揮できる環境があってこそ、新しい価値や変革が生まれます。

激変する現代において、これまでの「当たり前」を疑い、新発想でビジネスを創出するには、さまざまな特性を持つ人財の活躍が不可欠です。DE&Iは豊田通商グループの経営中核に位置づけられています。

聞き手

これまでの10年で、どのような変化がありましたか。 

前半の5年は「風土醸成」の時期でした。アンコンシャス・バイアス研修等でマインドの土台を作りましたが、当時は無意識のうちに「時間や場所に縛られずタフに働くスタイル」が標準とされていた側面もありました。

しかし後半の5年、特にコロナ禍を経てその常識は変わりました。グローバル展開の中で、対話を通じて、「何が本当の成功や顧客還元につながるか」を問い直しました。この経験を繰り返す中で、「当たり前を疑う」ことこそが、私たちがたどり着いたDE&Iの本質なのです。

聞き手

その柔軟な姿勢は、どのように育まれてきたのでしょうか。  

豊田通商は多くの合併を経験し、異なる文化で生きてきた人たちを融合してきた歴史があります。互いの「当たり前」をぶつけ合うのではなく、「融合するために今何が必要か」を考えることが、社員の遺伝子(DNA)に自然と組み込まれているのだと思います。

ミッションやビジョンが単なるスローガンに終わらず、社員の中に浸透しているのは、日常のあらゆる場面で繰り返し発信され、個人の目標設定や人事考課とも連動しているからです。迷った時にいつでも基本に立ち返ることができる「揺るぎない軸」として機能しています。

本社オフィスのUD調査から得た気づき

聞き手

ミライロとの取り組みである、本社オフィスのUD調査の背景を教えてください。

障害者雇用プロジェクト推進の一環でした。本気で雇用にドライブをかけるにあたり、「自分たちにはバイアスがあるかもしれない」と考え、専門的な目線で客観的に評価していただく必要性を感じていました。

実施してみて、物理的な課題以上に大きな学びとなったのが、「ハード面のバリアを取り除くことだけがバリアフリーではない」というミライロさんからのアドバイスです。すべての扉を自動扉にすることではなく、周りが気づいてサポートを行うというソフト面の配慮こそが本質であると、私たちの認識が大きく変わりました。 

聞き手

特に印象に残っている具体的な発見はありますか。 

名古屋オフィスのカフェスペースの事例です。元々は「段差はすべて無くすべき」という思い込みから、階段の代わりに急なスロープを設置していました。しかし、専門家の視点では、急勾配は危険であり、床材の違いによるつまずきのリスクや、視覚障害のある方の動線の不安定さにつながることが分かりました。

そこで工事を行い、適切な「段差」を設けた上で手すりを設置する設計へ変更しました。「段差があることを正しく認識できること」自体が大切な配慮になる。ただフラットにすればいいのではなく、安全に昇降できる設備と、それをフォローする周囲の意識を整えることが本当のバリアフリーなのだと気づかされました。この本気の姿勢は、同居するグループ会社へも自然と広がっています。

写真_UD調査の様子

 

ユニバーサルマナー検定で出会った言葉

聞き手

ユニバーサルマナー検定を導入された経緯をお聞かせください。 

まず、事務局が受検し、非常に素晴らしいコンテンツだと確信したことが出発点です。セミナー等で関心を持った社員が、次のステップとして自発的にチャレンジできるよう会社負担の仕組みを設計しました。そのため、KPIは受検率ではなく「主体的に受検した人の数」に置いています。自ら学びたいと手を挙げた人たちが、これからの組織の変革をけん引するリーダーになると信じているからです。 

聞き手

ユニバーサルマナー検定の中で、心に響いたメッセージはありますか。 

講義で出会った「お手伝いできることはありますか?」という一言の重みです。私たちはよかれと思って「障害のある方が一人で動ける設備」を整え、遠くから見守りがちですが、本当に必要なのは、まず声をかけ、相手のニーズを確認することなのだとハッとさせられました。それが人としても、組織で協働する上でも大切な基本姿勢だと教えられました。

 

特例子会社の枠を越えて現場に寄り添う「トスWork」

聞き手

TOSさまで展開されている「トスWork」は非常に独自性が高いですね。 

これはTOSで働く障害のある社員自身が立案してくれた大切なネーミングです。私たちは、障害のある社員が一つの部屋に集まる「集合配置型」ではなく、グループ内のさまざまな事業現場へ赴き、一緒に課題に取り組む「分散型」の働き方に挑戦しています。この働き方に誇りを持てる名前をメンバー全員で考えました。

その際、あるメンバーから「自分たちの仕事はバレーボールの『トス』のようなものですよね。営業スタッフがスパイクを決められるようボールをトスする。また、私たちの会社は『TOS(トス)』と呼ばれています。だから『トスWork』はどうでしょうか?」と提案があり、満場一致で決定しました。

この名前が生まれたことで、メンバーの確かな誇りへと昇華していきました。今ではロゴ入りビブスを着て現場へ向かうと、周囲から「トスWorkさん、ありがとう!」と声をかけられるようになり、温かい一体感が生まれています。

トップ経営陣も非常に好意的で、自らメンバーからレクチャーを受けたり、ユニバーサルマナー検定を取得したりしています。日常的にトスWorkの活躍が目に入る環境だからこそ、グループ全体に素晴らしい相乗効果が広がっています。

写真_トスWorkの様子

すべての仕事において、新しい価値を生み出すための姿勢

聞き手

取り組みの真ん中には、常に「相手の立場に立つ」という姿勢があると感じます。

ミライロさんのコンテンツに触れる中で、私たちの胸に刻まれているのが「ハードは変えられなくても、ハートは変えられる」という言葉です。物理的に改修が難しい箇所があっても、周囲の意識や運用の工夫次第で壁はいくらでも乗り越えられます。社内の多様な社員に対し、「何かお手伝いできますか」という配慮の一言があるだけで働きやすさは劇的に変わります。大切なのは、まず知ることであり、組織全体で接し方をアップデートし続けることです。 

聞き手

それは障害の有無に関わらず、ビジネスの本質にも通じるような重みがありますね。 

その通りです。究極的には障害の有無や属性は関係ありません。かつての「同質性」を重んじる古い風土から、いまや多様な価値観が複雑に絡み合う時代に変わりました。

「相手の立場に立ち、対話を重ねる」ことは、すべての仕事において新しい価値を生み出すための絶対的な姿勢です。障害者雇用を法定雇用率のためだけの義務と捉えるのではなく、「多様な強みを持つ一人ひとりがリスペクトし合い、ともに新しい価値を創造していく」という本質に立てるかどうか。互いを補い合いながら、当たり前にイノベーションを起こす強さを持った会社にしていきたいと、議論を重ねています。

学びはゴールではなく、終わりのない「気づき」のスタート地点

聞き手

これからのDE&I推進の展望についてお聞かせください。 

現在、ユニバーサルマナー検定を受検した社員は約50名ですが、将来的にはグループの全従業員が「主体的な気づき」を得られる状態を目指します。

ただし、目指すのは「資格の取得者数」という数字ではありません。検定の合格はゴールではなく、あくまで一人ひとりが周囲に関心を持ち、相手の視点に立つための「スタート地点」です。

「未来の子どもたちにより良い地球を届ける」ために、一人ひとりのハートを変え、組織の風土を変えていく。誰もが自分らしく輝き、唯一無二(Be the Right ONE)な価値を生み出せる強固な土台を、情熱をもってこれからも築き上げてまいります。

写真_TOSの皆さま