全員が誇りを持って名乗れる会社へ。「1人の人間」を起点に広がるDE&I推進

株式会社田中貴金属グループ

業種:

メーカー ・小売・流通

従業員数:

5,001名~

株式会社田中貴金属グループ(以下、田中貴金属)は、貴金属事業を中心に幅広い分野で事業を展開する企業グループです。2023年4月に「DE&I宣言」を発表し、全社横断的なダイバーシティ・エクイティアンドインクルージョン(DE&I)推進を本格化させました。2026年1月には、後に特例子会社となる「田中貴金属ネクスト株式会社」(以下、TKN)を設立。「社員が幸せに働くことができる職場づくり」という想いのもとに、過度に外部依存することなく自社主導で進めてきました。

今回は、その取り組みを推進してこられた原田様(DE&I推進室立ち上げ当時の室長)と戸井様(現特例子会社社長)を中心に、ダイバーシティを推進しているメンバーにお話をうかがいました。

画像_取材協力いただいた DE&I推進を担う皆様

 DE&I推進を担う皆様
 東恩納 様 / 田中 様 原田 様 戸井 様)

「だれもが幸せに働ける組織づくり」DE&I推進の全体像

聞き手

まずは、田中貴金属さまにおけるDE&I推進の全体像と、特例子会社「田中貴金属ネクスト」設立に至るまでの取り組みについて教えてください。

田中貴金属では以前から、女性活躍推進や障害者雇用、LGBTQ+対応などに個別に取り組んでまいりました。しかし、それらを全社横断的に推進する仕組みはなく、社員一人ひとりが「自分ごと」として捉えられていない実感がありました。そこで2022年に経営層の問題意識からメンバーを社内から公募して「女性ゼミ」を組成し、約8カ月間にわたって議論を重ねた成果物として経営への提言を行いました。その結果、2023年4月に社長による「DE&I宣言」と、DE&I推進室の設立が実現しました。

推進室の立ち上げ当初は3人の小さなチームで、最初の数カ月はひたすらブレストを重ね、自社にとってのDE&Iとは何かを言語化することから始めていきました。その後、約400人を対象とした全社ヒアリング・キャラバン、約500人を対象とした経営層も含めた女性管理職育成研修、多様性理解研修、ユニバーサルマナー検定の実施再開、DE&Iにかかわる情報発信、多様性に関連する個人情報保護制度の充実などさまざまな取り組みを実施。

特に研修はヒアリングから得た社員の声をもとに、コンテンツ作りを工夫しました。自社制度確認、ハラスメント対応、ヘルスマネジメント(メンタルヘルス含む)人材育成をテーマとしました。さらに管理職の手前の女性社員むけに社外講師によるロジカルコミュニケーションや幸福学、外部の女性社長による講演など、オリジナルなものにこだわりました。その背景には思い込みや偏見で自らの行動を狭めていないか?成長を妨げていないか?今一度自分に向き合ってほしいという想いがありました。

また、障害者雇用促進のさらなる具現化の一つとして2026年1月の特例子会社の前身となる「田中貴金属ネクスト株式会社」設立へと取り組みを広げてまいりました。これらの施策は、外部に過度に依存するのではなく、全社ヒアリングで集めた社員一人ひとりの声を何よりの拠りどころとし、自社の手で組み立ててきたものです。

すべての出発点はDE&Iの具現化を通じた「社員が幸せに働ける組織づくり」という一貫した想いです。これは、株式会社田中貴金属グループ 田中浩一朗社長の「すべての人は幸せになるためにうまれてきた」という言葉を背景としています。おかげさまで、この子会社は2026年3月に特例子会社化することができました。

画像_女性ゼミの皆さま

「会社は変わらない」を超えて、社員が自分ごととして動き出すために

聞き手

DEI推進に本格的に取り組まれる前、組織として感じていた具体的な課題は何だったのでしょうか。

人事制度や社内規程は、個別のテーマごとには整備されていました。しかし、社員一人ひとりがそれを「自分のこと」として受け止められているかというと、必ずしもそうではありませんでした。

当社で約400人を対象に実施した全社ヒアリングでは、「私たちが声を上げても会社は変わらない」というあきらめにも似た声もありました。安定している会社ゆえの進化の歩みの遅さへの危機感の薄さも、課題として浮かび上がってきたのです。

一方で、ヒアリングを進めるなかで、「育児をしているが、もっと仕事もがんばりたいのに」「シニア社員だってもっと仕事がしたい」「実は家族にも障害のある者がいて」「親戚にLGBTQ+の当事者がいて」と打ち明けてくださる社員が、後半になるにつれて増えていきました。職場では語られてこなかった仕事やご家族にまつわる切実な思いやアンコンシャスバイアスへの不満が、社員の心の中に静かに息づいていたのです。

だからこそ、女性・シニア活躍、外国籍社員活躍、障害、LGBTQ+等の少数派に焦点をあてながら多様性ある組織づくりのテーマを別々の取り組みとして進めるのではなく、どうしたら「幸せにはたらける職場づくり」ができるか、さまざまな課題をひとつにつなげていく必要があると考えるようになりました。

画像_キャラバンヒアリング風景

「あなたも、わたしも、この輪の中に入る」というコンセプト

聞き手

数あるサービスの中で、なぜミライロのユニバーサルマナー検定を選ばれたのでしょうか。

私たちが大切にしているのは、障害のある方、女性、LGBTQ+、ご高齢の方など、テーマごとに区切ってアプローチすることではありません。一人ひとりの人権をまもりながら「幸せにはたらくことができる組織づくり」という考え方を起点に、すべての取り組みを統合していくことです。

その点、ユニバーサルマナー検定は、障害のある方だけが対象ではなく、ご高齢の方、妊娠中の方、ケガをされた方など、あらゆる方を対象としています。立場を限定することなく、「あなたもこの輪の中に入る」「わたしもこの輪の中に入る」という広がりのある感覚を持てた点が、私たちの考えるDE&Iのあり方と重なりました。

また、障害に関連する知識やご高齢の方など多様な方がどういうことに困っているのかを学ぶ、自分とは異なる立場の人の思いや苦労を考えることが、かえって社員を構えさせてしまう面もあると感じています。

しかし、ユニバーサルマナーは「知識」だけではなく「人としての姿勢」のバランスが取れている点も、私たちの大切にしたい価値観や目指す方向性と一致していました。「困っている人や課題を抱えている人はきっとこう思っているはず」「余計なお世話じゃないのか?」「それは無理でしょ・前例がない」など、多様性ある社会に必要なコミュニケーションなしにアンコンシャスバイアスに支配されてしまっている自分をかえるきっかけの一つとなりえるわけです。

実は、弊社内でのユニバーサルマナー検定はコロナ禍もあり、数年停止していました。ですが、2023年にDE&I推進という明確なミッションができたことで、さまざまな事情をもつ人がいることを理解し、多様性を受容するには欠かせない検定であることから本格的に再開させることができました。昨年、DE&Iにかかわっているメンバーは全員2級を取得しました。

画像_検定受講風景 

土壌づくりが、特例子会社設立への確かな一歩へとつながった

聞き手

導入後、社員の皆さまの反応や、組織にどのような変化がありましたか。

ユニバーサルマナー検定は募集型で実施していますが、受講者数は着実に増えています。研修と検定の積み重ねにより、社員の視野が広がったという声を多くいただきました。「一歩踏み出すことがなかなかできなかったときに、学ぶ機会や考える機会があることで、できなかったことができるようになった」という声もあります。

さらに大きな変化は、多様性理解の土壌が整ったことで、特例子会社「田中貴金属ネクスト」設立という次のステップに、迷うことなく踏み出せたことです。「法定雇用率の達成のために設立する」のではなく、「一人ひとりが働くことの喜び・楽しさを実感し、輝く未来と可能性を描ける会社をめざす」というTKNの企業理念を策定できたのは、これまでのDE&I推進の歩みがあったからこそでした。

受講をきっかけに、ご家族のことを語ってくださる社員も増えました。一つひとつの取り組みが独立して存在するのではなく、ひとつの大きな思想のもとでつながっている。その実感が、組織全体に広がりつつあります。

画像_従業員集会風景

 

「幸せに働ける組織づくり」という大きな思想のもとに ― 10年先を見据えて

聞き手

今後、この取り組みをどのように発展させていきたいとお考えですか。

「ネクスト」という社名には、「次に」「明日に」「未来につながる」という思いを込めました。そして、誰もが胸を張って名乗れる名前にしたい。そんな願いから生まれた名前です。

田中貴金属ネクストは、10年計画で進める長期スパンの取り組みです。最初の2年間は基礎固めの時期と位置づけ、組織体制の整備、軸となる事業の確立、障害がある方を採用するための支援体制づくりに注力してまいります。短期的な収益性よりも、持続可能な体制構築を優先する判断です。

並行して、本体側のDE&I推進も継続的に進化させていきます。多様性のテーマは、障害領域だけでなく、女性活躍、LGBTQ+、シニア活躍、ご家族の介護等まで広がりを持って捉えています。私たちは、これらを分断された個別の取り組みとしてではなく、ひとつの大きな思想のもとに統合的に進めていく考えです。

3年もすれば、人は学んだことを忘れてしまうもの。三歩進んで二歩下がる、それで当然。だからこそ、繰り返し学び続けることが必要です。今後は若い世代も巻き込み、新しい視点をどんどん取り入れていきたいと考えています。ぜひ、数年後にTKNの進化した姿を取材してください。

写真_社史の前で、DE&I推進担当の皆さま

 

聞き手

ありがとうございました。田中貴金属さまの取り組みのさらなる発展が楽しみです。