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2020年04月27日

明日仕事ある?と毎日質問する息子のルール

岸田 ひろ実

お家で過ごすのも、早1ヶ月が過ぎた我が家。当初はすっかり変わってしまった生活に悲観的になりがちでしたが、そんな非日常はだんだんと日常へと変わりつつあります。

今回はそんな日々を過ごしている息子・良太のことを書きたいと思います。

写真 桜を見る良太

 

良太は24歳。ダウン症で重度の知的障害があり、就労継続支援B型の作業所で働いています。小さな商品の袋詰めやポスティング用のサンプルづくり、施設の清掃など、良太の得意な仕事を自慢の集中力を活かして、いつも楽しそうに働いています。カレンダーの青い数字と赤い数字の日はお休みだということもわかっています。

良太が作業所で働くようになって7年目を迎えました。今では持っていくものの準備も1人でできるし、バスの時間も計算しながら出かけられるようになりました。長い月日が良太を成長させてくれました。

そんな中、緊急事態宣言を受けて良太の作業所も可能な限り家庭での自粛をすることになりました。良太に、明日から作業所が暫く休みになることを伝えました。

きょとんとする良太。

「あした、しごと、いく?」

「あした、しごと、ある?」

良太の質問が終わらない。

カレンダーの数字が青でも赤でもないのに、明日が休みということがどうしても納得できないのです。

コロナウィルスって何なんだ?どうして作業所がずっと休みになるの?良太には理解できません。どうすればわかってくれるかなぁ…。私はテレビのニュースや新聞を見せながら一生懸命、良太に説明しました。

それでも朝になると、いつものように仕事に行く準備が始まります。今日は仕事、休みだよと声をかけても良太は聞く耳持たず。「しごと、あるよ。しごと、いくよ」の一点張り。全く納得していない良太に、再びテレビを見せる、新聞を見せる、そしてコロナウィルスはこわいという私の寸劇まで披露しつつ、やっとのことで説得できたお休み初日。こんなやりとりから始まる日が暫く続いたのです。

そして2週間が過ぎた頃、仕事に行かないという良太の非日常が少しずつ変化し、仕事に行かないことが良太の日常になりました。

写真 講師の岸田ひろ実と息子の良太

 

この7年間、良太が一生懸命、頑張りながら続けてきた日常が突然に中断されてしまったのです。その戸惑いはどれだけ大きなストレスなのか。これまでのルールがルールでなくなることの不安な気持ちは、私に置き換えてみても簡単に想像がつきます。

人は自分で決めたルールを乱されることが苦手です。ルールが多ければ多いほど、乱された時に感じるストレスは大きくなります。人よりこだわりが多い良太が決めたルールは、人よりもたくさんあります。決まった時間に、決まった順番に、必ずやることがたくさんあります。それがある日をきっかけにそのルールを守れなくなるわけですから。それは大きなストレスです。

そんな中、気がつくと良太は変わった自分の環境にあわせて新しい1日のルールを作っていました。

塗り絵をする。

歌を歌う。

ダンスをする。

遊ぶ。

 

部屋を片付ける。

お風呂掃除をする。

ゴミ出しをする。

お手伝いをする。

 

犬と戯れる。

お昼寝をする。

ママとたくさん話をする。

楽しむ。

…わりと忙しい良太。

【画像】塗り絵

 

良太を見ていて気づいたことがあります。

非日常の中にいる今は、これまでの日常で作ったルールを守ることができなくてストレスになってしまう。だったら今しかできない新しいルールに作り替えればいい。そしたら今が楽しくなるということ。

仕事にいけなくなって暫くして、できあがった良太の新しいルールは、ちゃんと遊ぶこと、ちゃんとお手伝いすること、ちゃんと楽しむこと。

そうだったのです。

自分で今日1日の目標や予定をつくって、それをちゃんとこなしていくこと。ただそれだけでよかったのです。そんなに難しいことではなかったのです。

自分で作り直した新しいルールをちゃんと守りながらご機嫌に過ごしている良太を見ていると、それだけで私は元気になれます。大切なことをたくさん教えてもらえます。

これまであった日常と同じルールで過ごせる日はまだ暫くこないかもしれません。それでも、今までのルールに縛られるのではなく、今しかできない新しいルールに作りかえ、それを守ることで自分の役割を果たすこと。それが今、この状況で暮らす私たちが大事にすることなのかもしれません。

そして、
こんなにも色々とある毎日を、無事で元気に過ごしている良太に、私に、すごいよ!えらいよ!と褒めてあげたと思います。

良太が教えてくれた大切なことでした。


 

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