ユニバーサルマナー講師の薄葉です。
聴覚障害のある講師として、全国各地の様々な企業、自治体、教育機関などで講義を担当しています。
私は耳は聞こえませんが話せますので、講義は声でお伝えしています。
(※中途失聴者とは?:元々は聞こえていたが、事故や病気などが原因で聞こえなくなった人。耳は聞こえないが、話をすることは可能な場合が多い。)
突然ですが、皆さんは日常生活の中で、どれくらいの頻度でエレベーターを利用されますか?
私は職場のビル、通勤時に利用する駅、よくランチで利用する商業施設、講義のために訪問する取引先のオフィスビルなど、毎日のようにエレベーターを利用しています。
今回の記事は、聞こえない私がエレベーターの中で嬉しく感じた、とある紳士のユニバーサルマナーのお話です。
【エレベーターにまつわる困りごととは?】
皆さんは、聞こえない人が日常生活の中で感じる困りごとについてご存じでしょうか?
聞こえない人は耳から入る音の情報をキャッチできません。
そのため、「音声情報の取得」と「コミュニケーション」の領域で困りごとが発生します。
エレベーターにまつわることであれば、エレベーターが到着した際のチャイムの音が聞こえていませんので、背後のエレベーターが到着しているのに気がつかなかったり。
たくさんの人が乗っているエレベーターに自分も乗りこんだ際、重量オーバーの警報音が鳴っていても聞こえなくて、気まずい思いをしたり…。
他にも、災害発生時にエレベーターが緊急停止すれば、エレベーターの管理会社とインターフォンを通じてやり取りをしますが、インターフォンを通じた音声情報のみでのコミュニケーションが難しかったりします。
【エレベーターを利用する際、私が最も緊張する瞬間とは?】
このような困りごとがある私は、エレベーターを利用する際、内心では密かに緊張していたりします。
そして、私が最も恐れている瞬間とは…。
ある日のことでした。
いつものように、講義の会場に向かうため、とあるビルのエレベーターホールで、私はエレベーターの到着を待っていました。
その日の会場は、一般の飲食店も入居している商業施設のビルだったので、昼食時ということもあり私がエレベーターに乗りこむ際には、すでに内部は人で込み合っていました。
実は、エレベーターに乗る際に、私が最も気を付けていることがあります。
それは、エレベーター内部のどこに立つか。
つまり、「位置取り」です。
なぜかというと…。
皆さんもご存じだと思いますが、エレベーターに乗る際、階数ボタンのパネル前に立つ人が「何階ですか?」と、階数ボタンが押せない位置にいる人へお声かけし、その人が降りたい階数のボタンを代理で押す、というマナーがあります。
聞こえない私にとって、このマナーは、実は、最も苦手とすることなのです。
【相手の口元が読み取れない恐怖】
例えば、「10階をお願いします。」と誰かからお願いされたとします。
聞こえない私は、この第一声が聞こえません。
声をかけられたことに気が付けないこともあります。
気が付けたとしても、相手が次は何を伝えたいのかを理解するために口元を読み取る必要があるのですが、この口の読み取りは大変難しいのです。
聞こえない人であっても、すべての人が口の読み取りができるとは限りません。
時には、奇跡的に相手の口元が読み取れ、正しい階数のボタンを押せることもありますが、初対面の人の口元を読み取ることは難しいことが多くあります。
また、聞こえない人は外見からは聞こえないことがわかりづらいため、相手はこちらが聞こえないことを知る由もありません。
そのため、口元を見せてゆっくり話をしてくれることはありませんし、マスクを装着していて口元がまったく見えないということも日常茶飯事です。
この日の私は、エレベーターに乗り込む際に少し嫌な予感がしていました...。
今回はここまでとして、続きは次回お伝えいたします。
今回の記事を通じて、聴覚障害者の困りごとの一例を知っていただけたらと思います。
次回は、少し視野を拡げて、障害者の日常生活における課題の本質と、環境面のユニバーサルデザインについてお伝えします。
■続きはこちらから
・「ユニバーサルマナーのある日常②」聞こえない私のピンチを救ってくれた、とある紳士のさりげない配慮とは?
・「ユニバーサルマナーのある日常③」聞こえない私のピンチを救ってくれた、とある紳士のさりげない配慮とは?
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