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2020年10月19日

聞こえない私のピンチを救ってくれた、とある紳士のさりげない配慮とは?「ユニバーサルマナーのある日常③」

薄葉ゆきえ

ユニバーサルマナー講師の薄葉です。
聴覚障害のある講師として、全国各地の様々な企業、自治体、教育機関などで講義を担当しています。
耳は聞こえませんが話せますので、講義は声でお伝えしています。

突然ですが、皆さんは日常生活の中で、どれくらいの頻度でエレベーターを利用されますか?

私は職場のビル、通勤時に利用する駅、よくランチで利用する商業施設、講義のために訪問する取引先のオフィスビルなど、毎日のようにエレベーターを利用しています。

前回の記事では、実際に私が遭遇したエレベーターにおける困りごとを踏まえ、障害者の日常生活における課題の本質をお伝えしました。
※前回のお話はこちら

今回の記事では、前回の話の続きから、私のピンチを救ってくれた素敵なユニバーサルマナーの救世主についてお話します。

数字の読み取りは難しい

私は、あるエレベーターで他の乗客の波にのまれてしまい、階数パネルの前に押し込まれてしまいました。
このとき、私が最も恐れていたことが起こりました。

「〇階をお願いします。」

状況からみても、階数パネルの反対側に押しやられた人が、代理操作を私にお願いしていることは明らかです。
ただし、やはりというか…、その時の私には「〇階」と伝えてくる相手の口元が読み取れませんでした。

「え?」と、思わず声が漏れた私に、その人はもう一度伝えてきました。

「〇階をお願いします!」

相手の方の口の動きで、十の位である「10」はわかりました。
しかし、一の位の数字は「1」「2」「7」のどれか…。

口の動きでは、「じゅうしちかい」とも捉えられましたが、「17階」を伝える場合は、「じゅうしちかい」というよりは、「じゅうななかい」という言い方の方が自然なので、「7はないだろう」と推測しました。そのため、その方が伝えたいのは、「11階」か、「12階」だろうと、見当を付けることができました。

しかし、「11」と「12」のどちらなのかまでは、絞り込めません。
なぜかというと、「11」と「12」は口の形がとてもよく似ているからです。

皆さんも、鏡でご自分の口元を見ながら「11」と「12」の口の形を確認してみてください。
判別は、難しいのではないかと思います。

ユニバーサルマナーの救世主、あらわる!

11階と12階、両方の階数ボタンを押してしまおうか?
もしくは、「私は耳が聞こえません。代わりに階数ボタンを押してもらえますか?」と、周囲の誰かにお願いしようか?
こんなことを考えていました。

しかし、私が周囲の方にお願いすることで、階数ボタンの代理操作を頼んできてくれた方に気まずい思いをさせてしまうのではないか?

色んな想いが錯そうしてしまい、私はちょっとした窮地に立たされました。
また、そうこうしているうちに、エレベーターに乗っている人達の視線が私に集まり始めました。

そのときでした。
私の左後方に立っていた男性がさっと前に移動し、私の代わりに階数ボタンを押してくれたのです。

私の挙動不審な様子を背後から観察していて、「もしかしてこの人、困っているのでは?」と察してくださったのでしょう。
このさりげない配慮に、私は感謝の気持ちで胸がいっぱいになりました。
そして、その方は「あとは、自分が操作しますよ。」という様子でニコっと笑い、さりげなく階数パネルの前に移動してくれたのです。

【写真】エレベーター内部の階数パネルを押している人の手

 

その紳士が内心でなにを思い、私を助けてくれたのか、その方に確認をしたわけではありません。

ただ1つだけ言えることは、その方のおかげで、その場にいた誰もが気まずい思いをしなくて済みました。
一連の時間としてはわずか数秒のことでしたが、このさりげない配慮に対する感謝の気持ちは今なお、鮮明に残っています。

ハードは変えられなくても、ハートは今から変えられる

その方にお礼をお伝えし、私は講義会場へと向かいました。
心が晴れ晴れとし、その日の講義ではいつも以上の情熱をこめて、受講者の皆さんにお伝えすることができました。

誰もが使いやすいエレベーターを設置し、増やしていくこと。
環境面の整備ができれば、それがベストかもしれません。

ただ、環境の整備にはどうしても費用と時間ががかかってしまいます。
現実的に考えたら、今すぐに社会全体を変えることは難しいでしょう。

しかし、私たちのハートは今すぐにでも変えていけます。
さりげない配慮、ユニバーサルマナーによって、だれもが暮らしやすい社会へと変えていけます。
私たち一人ひとりがユニバーサルマナーの中心点となって、この社会をより良い場所へと変えていきましょう!

皆さま、最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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