2025年4月から始まった、大阪・関西万博について視覚障害のある方も楽しめる情報を視覚障害の原口がお届けします。
大阪・関西万博は、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、「People's Living Lab(未来社会の実験場)」をコンセプトとして掲げています。
視覚障害のある方も、最新のテクノロジーと工夫によって、万博を存分に楽しめるようになっています。今回は、万博を楽しめる取り組みを4つご紹介します。
目次
・触知図で会場全体を「触って」理解する
・shikAI(シカイ)とNavilens(ナビレンス)で「見る」をサポート
・AIスーツケースで自律的な移動を実現
・視覚障害者が楽しめるパビリオン
・まとめ
触知図で会場全体を「触って」理解する
大阪・関西万博では、会場の全体像や各パビリオンの配置を触覚で把握できる触知図が導入されています。従来の平面的な点字案内図とは異なり、凹凸や異なる素材感によって、建物の形状や道の広さなどを直感的に理解することができます。これにより、視覚情報に頼らずとも、空間認識を深めることが可能になります。
この触知図には、制作者の「弱視や全盲の方も安心して万博を楽しんで欲しい」という思いが込められています。視覚障害者が会場で迷うことなく、自らの意思で自由に移動し、目的の場所へたどり着けるように、単なる案内ツールではなく、能動的な行動を促すための支援ツールとして位置づけられています。
午前中に万博会場内を散策したあと、お昼すぎに東ゲートアクセシビリティセンターで借りて利用してみました。
万博会場のような広い場所を移動する際は、全盲の人は友人や家族など、見える人と移動することが多いのですが、会場の全体像が分からないことが多く、目的地までただ歩いているだけになりがちです。事前に触知図を触って移動するルートや、どこにどんなパビリオンがあるか把握できることで、場内の移動がより楽しくなると感じました。
触知図を利用したい方は、東ゲート広場案内所、西ゲート施設案内所、サービス施設 北東案内所、東ゲートアクセシビリティセンター、西ゲートアクセシビリティセンターで利用できます。
shikAI(シカイ)とNavilens(ナビレンス)で「見る」をサポート
今回の万博では、shikAI(シカイ)とNavilens(ナビレンス)という移動支援アプリが導入されています。スマートフォンやタブレットのカメラを通して周囲の状況をAIが認識し、音声で情報を伝える視覚支援アプリです。
例えば、目の前の建物の名称や、展示物の説明、混雑状況などをリアルタイムで音声案内をしてくれます。これにより、視覚的な情報を補完し、より詳細な情報を得ることができます。
万博会場という情報量の多い場所で、視覚障害者が取り残されることなく、積極的に参加できるよう支援します。
実際に利用してみたところ、目的地までのルートを正確に案内してくれ、建物の情報も非常に分かりやすく伝えており、これらのシステムが街中のあらゆる場所に実装されれば、視覚障害者の移動するうえでのバリアは大幅に解消されるのではないかと実感しました。
ご自身のスマートフォンにアプリをダウンロードし、起動してカメラをかざすだけで利用できます。音声案内に従って、パビリオンの内容を理解したり、周囲の状況を把握することができます。
shikAIとNavilensの詳細・利用動画は大阪・関西万博の公式Webサイトから視聴できます。
AIスーツケースで自律的な移動を実現
AIスーツケースとは、内蔵されたAIとセンサー技術により、視覚障害者の単独歩行を支援するスマートデバイスです。周囲の障害物を検知し、安全なルートを音声や振動で誘導するだけでなく、目的地までの経路案内や、混雑している場所の回避なども行います。まるで信頼できるガイドが傍にいるかのように、安心して移動することができます。
ショート・ツアーとロング・ツアーがあり、私たちはロング・ツアーを体験してきました。
私は以前、盲導犬ユーザーだった時期がありました。AIスーツケースを体験して、初めて盲導犬とともに歩いた日のことを思い出しました。自由に歩けることの喜びと何とも言えない開放感がとても心地よかったのですが、AIスーツケースの体験はその日のことを思い出させてくれたのです。混雑している場所や人が多く並んでいる場所などでは、スーツケースが安全に移動する道を見つけられずに困っているようなシーンもあり、課題はありますが、行きたいところに自分自身で行けるようになる未来がもうすぐそこに来ているんだなということを実感した体験でした。
AIスーツケースは「視覚障害者が自信を持って、どこへでも行ける社会を創りたい」という願いから開発されました。従来の白杖や盲導犬に加えて、テクノロジーの力でさらに自由な移動を可能にすることで、視覚障害者の社会参加を促進し、生活の質の向上に貢献することを目指しています。万博のような広大な空間でも、自分のペースで探索できる喜びが提供されます。
スーツケースに引かれて歩くだけで、AIが周囲の情報を解析し、音声や振動で誘導してくれます。目的地は事前に設定することも可能です。
今回の万博では、ROBOT&MOBILITY STATIONにて、体験予約ができます。詳しい予約情報は下記リンクよりご確認ください。
視覚障害者が楽しめるパビリオン
シグネチャーパビリオン福岡伸一「いのち動的平衡館」触覚体験(視覚・聴覚に障害がある方向け)に事前申込で抽選に当たったので体験してきました。「いのち動的平衡館」は、人類の誕生から未来に至る生命の流れをテーマとした体験型展示施設で、LEDを用いた演出や映像コンテンツを通じて、生命の進化や循環を視覚的・感覚的に表現しています。
映像コンテンツの再生時には、副音声によるナレーションがヘッドホンから提供されます。手に装着するデバイス(ボール)を握ると、光が集まり、さらに広がっていく様子が振動で伝えられ、さらに足元にも振動が伝わり、視覚以外の感覚によって空間演出を体験できる仕組みとなっていました。振動によるフィードバックにより、文字の読み上げのみの情報保障よりも認知できる情報量が増加しました。
これまでは、視覚障害者に対する映像コンテンツの情報保障は、副音声での情報保障が一般的でした。それに加えて、振動で表現する触覚での情報保障というものを初めて体験しましたが、とても臨場感があり、コンテンツの世界に引き込まれる感覚でした。情報保障の形もいろいろな可能性があるのだと気づいた体験でした。
まとめ
今回、私は万博で「未来の社会」を体験できたと感じています。テクノロジーの発展によって、誰もが行きたい時に、行きたい場所に行って、好きなことを楽しめる、そんな社会がもうすぐそこまで来ている!そんな気持ちになった1日でした。もちろん、どれだけテクノロジーが発達しても、周りの人の声掛けやサポートは必要不可欠です。ハードとソフトに加えてテクノロジーが充実し、誰もが暮らしやすい社会が作られていくことを引き続き期待します。