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2019年11月26日

ホスピタリティの第一人者・高野登さんが語る。百年先の日本を照らす!ステーションと居場所の関係性

ミライロ

画像 対談

20年間にわたってアメリカのホテル業界に身を投じ、帰国後、ザ・リッツ・カールトンホテルの日本支社長として、唯一無二のブランディング活動に、大きな貢献をした高野登さん。「リッツ・カールトンが大切にするサービスを超える瞬間」は、ベストセラーに。たくさんのお客さまの大切な時間と向き合う中で、皆が幸せに生きる社会について、語っていただきました。

話す人

高野 登(たかの のぼる)

高野 登(たかの のぼる)

1953年長野県(旧)戸隠村生まれ。プリンス・ホテル・スクール(現日本ホテルスクール)を第一期生として卒業後、21歳で渡米。数々の名門ホテルでホテルマンとして勤務後、1994年ザ・リッツ・カールトン日本支社長に就任。2010年人とホスピタリティ研究所を設立し、企業活性化・社内教育・講演活動を続ける。
自らが語る弱み(バリア)は「人見知り」。逆手に取って語る強み(バリュー)は「人の感情や行動に気づきやすくなり、ホテルマンとしてのホスピタリティを発揮できた」。

聞く人

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垣内 俊哉(かきうち としや)

1989年に愛知県安城市で生まれ、岐阜県中津川市で育つ。生まれつき骨が脆く折れやすいため、車いすで生活を送る。自身の経験に基づくビジネスプランを考案し、国内で13の賞を獲得。障害を価値に変える「バリアバリュー」を提唱し、大学在学中に株式会社ミライロを設立した。高齢者や障害者など誰もが快適なユニバーサルデザインの事業を開始、障害のある当事者視点を取り入れた設計監修・製品開発・教育研修を提供する。

 

百年先を明るくするのは「ばかもの」の存在?

垣内
垣内
垣内

高野さんは長野県のご出身ですね。地域を盛り上げるための取り組みもされていたと聞きましたが、どんなことですか?

スタートは、私が生まれ育った戸隠村(現在は長野県に編入)を元気にするために開いた、戸隠百年構想会議ですね。

高野さん
高野さん

画像 高野さん

垣内
垣内
垣内

百年という単位には意味がありますか?

イメージしやすい年数だからです。百年と言うと、お爺さん、お父さん、そして自分という三代で終わります。長野県にある善光寺は創立千三百年ですが、千年前なんてイメージがつかないですよね?

高野さん
高野さん
垣内
垣内
垣内

確かに。自分から三代先くらいのことであれば、イメージできますね。

可能な限り良い百年先イメージをして、実現するために今、皆で知恵を絞りましょう、というのが百年塾の目的です。

高野さん
高野さん
垣内
垣内
垣内

私が生まれ育った岐阜県中津川市もいわゆる“田舎”ですが、旧戸隠村もそうですよね。田舎を良くしていく上で、その会議ではどんなことが大切だったんですか?

ずばり「よそもの」「ばかもの」「わかもの」の3種類の人たちに、会議へ参加してもらうことです。

高野さん
高野さん

画像 高野さん

「よそもの」は他県から移住した人、「わかもの」は若い人、と高野さんは言います。それでは「ばかもの」とはどういう意味なのでしょうか

若者の前でバカになれる高齢者のことです。(笑) 本当は頭が良く、知恵も持っている高齢者が、あえてバカを演じることが重要なんです。

高野さん
高野さん
垣内
垣内
垣内

どうやって演じるんですか?

自分の考えや風習を押し付けるのではなくて「お前たいしたもんだなあ」「どうやってやったんだい?」と、ねぎらいや賞賛の言葉をかけてあげることです。「ばかもの」の存在が、「わかもの」「よそもの」と、昔から住んでいる人たちの間にある溝を埋めてくれるんです。

高野さん
高野さん
垣内
垣内
垣内

なるほど!戸隠百年構想会議には、その三種類の人たちも参加して、村を盛り上げていく話ができたんですね。

はい。色々と課題はありますが、田舎を元気にするためには「お祭りの復活」が有効だと考えています。

高野さん
高野さん

お祭りとは、高齢者の知恵を借りながら、若者が作り上げ、よそ者に来てもらうことだと高野さんは言います。お祭りは神へ感謝を表す儀式ですが、それだけではありません。みんなが一緒になって、一晩騒いで、お酒を飲んで、仲良くなることができます。

画像 垣内

垣内
垣内
垣内

少子高齢化とともにお祭りも減ってきていると言いますが、それを復活させていくんですね。

でも、お祭りにも課題があるんです。旧戸隠村には、若者だけではなく、障害者も外国人もいます。でも、その人たちは、祭りに居場所がないと思っている人が多いです。

高野さん
高野さん
垣内
垣内
垣内

そうですね……。私も地域のお祭りに行く時「車いすで楽しむのは難しいだろう」と思っていましたし、外国人だったら言語や文化の壁もありますし。

村のことが好きで住んでいる人たちなのに、彼らの声にちゃんと耳を傾けて、安心できる環境を作ろうとする住人や行政は少ないんです。これは急いで解決しなければいけません。

高野さん
高野さん

 

ダイバーシティとは「深い対話」である

垣内
垣内
垣内

村がダイバーシティに対応していくには、どうすれば良いでしょうか?

ダイバーシティは「深い対話」だと、私は思っています。

高野さん
高野さん
垣内
垣内
垣内

会話じゃなくて、対話なんですね。向き合っているかどうか、が重要だと。

画像 対談イメージ

そうです。目まぐるしい日々の中で、ただ同じ空間にいて、表面的な会話をするだけでは意味がないんです。

高野さん
高野さん
垣内
垣内
垣内

高野さんがご著書で書かれていた、混合と化合の考え方ですね。

高野さんは、多様性こそが組織を磨き、強くしていくと言います。物事を混ぜる方法には「混合」と「化合」があり、生じる価値が違います。混合はただ混ざっているだけですが、化合では新しい物事が生まれます。障害の有無、LGBT、外国人など多様な人々を視野に入れた、化合的な組織づくりが必要というのが、高野さんの考えです。

垣内
垣内
垣内

どうすれば化合を促せると思いますか?

キーワードは「ステーション」です。例えば、長野県の松本市の魅力はバー文化です。曲がりくねった路地の先や、入りづらい雑居ビルの一角に、こだわりのバーを作っているんです。その雰囲気が売りなのですが、垣内さんからしたら、不便ですよね?

高野さん
高野さん
垣内
垣内
垣内

車いすではどうしても入れないお店が多くなってしまいますね。

でも、全部のバーにエレベーターを設置してバリアフリーを完備するのが正解かと言うと、それもなかなか難しいんです。

高野さん
高野さん
垣内
垣内
垣内

私も、それは違うと思います。なんでもかんでもエレベーターをつければ良いというわけではないですし、予算や立地的に不可能な場合もありますから。

だから「ステーション」があったら良いなと思うんです。ここへ行けば安心、多様性を尊重してくれて居心地が良い、誰かに会える、という場所です。

高野さん
高野さん
垣内
垣内
垣内

障害者、LGBT、子育てをする人、外国人など、色んな人にとって便利な場所ということですね。

そうです。便利なだけではなく、そこに集まった人々の深い対話こそ、価値があります。

高野さん
高野さん
垣内
垣内
垣内

「ステーション」という考え方は素晴らしいですね。私にとっての「ステーション」は、小学校でした。

画像 垣内

どんな学校だったんですか?

高野さん
高野さん
垣内
垣内
垣内

私と弟の二人が車いすに乗っていて、知的障害のある子どもが三人いました。小学生の同級生が、バリアフリーやダイバーシティについて議論することはありませんでしたが、ともに過ごしたこと自体に意味があると思いました。

垣内さんの同級生は、大人になって障害者に出会ったら「そう言えば、車いすに乗っている垣内くんがいたな。こうやって手助けすると良いんだっけ?」と思い出せますね。

高野さん
高野さん
垣内
垣内
垣内

そうなんです。同じ空間、同じ時間をともにしているだけで、同級生とは深い対話ができました。それが原因かはわからないですが、私の同級生には医療従事者がとても多いです。

学校は知識を学ぶだけではなく、人間力を高める場所でもあります。垣内さんたちに出会った同級生が、社会に出た時、良い影響を与えていく。これも化合ですよ。

高野さん
高野さん

 

お客さんと身内の人に対して、対応の違いがある

来年には東京オリンピック・パラリンピックが開催され、東京には外国から多くの人々がやって来ます。多様性を目の当たりにする機会が一層増えるなかで、私たちが持つべきホスピタリティの意識や姿勢を、高野さんに伺いました。

私は、そもそも欧米人と日本人の「他人に対するメンタリティ」が決定的に違うと思っています。

高野さん
高野さん
垣内
垣内
垣内

どう違うんですか?

“よそからやって来たお客さん”に対する、日本人のおもてなしは本当に素晴らしいんです。でもそれが“同じ国や街に暮らす仲間”になった瞬間、距離を置いてしまいがちです。

高野さん
高野さん
垣内
垣内
垣内

海外からわざわざ足を運んでくれた人や、違う都市から旅行に来てくれた人に対しては、最高のおもてなしができる。でも、例えば移住して身内になる人となると、一歩引いてしまう。たしかに、そうかもしれません。

欧米人は逆なんですよ。私はアメリカで20年暮らしていましたが、ニューヨークに移り住んだ途端「Welcome to family!」という感じで歓迎されました。日本人は、近くにいる人のことほど見えなくなってしまうように感じます。

高野さん
高野さん
垣内
垣内
垣内

手元のことすら見えなくなってきているとも思います。街では歩きスマホが増えましたが、車いすはどうしても視界に入りづらくなり、よくぶつかってしまいます。

そう!そうなんです!私も今朝、地下鉄の電車に、ベビーカーを押した女性が乗ってくるのを見ました。誰もスペースを譲らないし、ベビーカーが足に少し当たってしまった人は、その女性を睨みつけていました。もう……びっくりしました。

高野さん
高野さん
垣内
垣内
垣内

お客さんへのおもてなしは発揮できても、身内には発揮できないとするなら、どうやって意識を改善していけば良いでしょうか。国民性や気質の問題もあるように思います。

一つ、モデルになる地域があります。島根県の海士町(あまちょう)という島です。人口は2,300人ほどで、年々増え続けています。

高野さん
高野さん

日本海の島根半島から約60km先に浮かぶ隠岐諸島、その島のひとつである島根県海士町。本土からは船で2時間以上かかり、都会に比べれば決して便利ではない生活のように思えます。しかし、海士町への移住者は年々増加し、統廃合寸前だった高校にも、多くの学生が入学したとのことです。

垣内
垣内
垣内

どんな人が移住しているのですか?

いろいろな人がいますが、“生きづらい”と感じている人が多いと聞いています。特に、不登校になった、うつ病を発症した、居場所がなくて辛い……そんな中学生や高校生の子どもたちのようです。

高野さん
高野さん
垣内
垣内
垣内

子どもたちだけで移住するんですか?それとも、家族も一緒に?

最初は家族も一緒に暮らして、慣れたら、子どもだけ寮に入って共同生活を送るパターンも多いそうですよ。孤立したり、寂しさを感じたりしない仕組みが、島にはあるんです。

高野さん
高野さん
垣内
垣内
垣内

“生きづらさ”を感じにくくなる仕組みですよね。どんな仕組みですか?

島にはコンビニや自動販売機がないんです。あるのは売店のみ。それも19時くらいに閉まってしまうものですから、子どもたちはお腹が減ったら、売店に行くほかないんです。

高野さん
高野さん
垣内
垣内
垣内

売店の店員さんに売ってもらうしかないんですね。

そうです。しかも店員さんたちは、みんなお喋りですから。「どこから来たの?」「学校どうだった?」「今日は顔色悪くない?何かあった?」って、子どもに尋ねるんです。お喋りをしないと、買い物ができません。(笑)

高野さん
高野さん
垣内
垣内
垣内

何かをするには必ず、コミュニケーションを取らければいけない仕組み、都会ではどんどん減ってきていますね……。

大人たちは、同じ島に暮らす人とコミュニケーションを取るのが好きなんです。そして、島で生きていくだけではなくて、島の外に食材を売ったり、情報を発信したり、繋がる仕組みも持っていますから。

高野さん
高野さん
垣内
垣内
垣内

なるほど。「居場所を多く持ち、自分で選べる」というのは、一つのキーワードかもしれませんね。一人でいる方が楽な時もあるけど、やっぱり孤独で何かと繋がりたい、という人はかなり多いと思います。

そうですね。居場所を自分で狭めないためにも、目の前にいる人たちとの向き合い方から、変えていかなければいけないと思います。

高野さん
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垣内
垣内
垣内

まずは同じ国や街に暮らす身内に対して、ウェルカムな姿勢を、ということですね。

品格を磨く

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ザ・リッツ・カールトン・ホテル日本支社長として名を成した高野さんが、35年間のホテルマン人生の中で出会ってきた数多くの経営者、パーソンビジネスから学んできたリーダーとしての在り方、組織の在り方を「品格」という切り口から語ります。読む度に、清らかな風が流れ、身体の芯から熱い力が湧いてくる本書は、決断に迷ったとき、自分を振り返りたいとき、手元に置いて何度も読み直したい愛と勇気とパッションと、そして、品格に満ちた一冊です。

 

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