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2020年03月15日

パラスポーツをみんなで盛り上げるには?レジェンド・河合純一さんに聞いてみた

ミライロ

画像 対談イメージ

全盲のスイマーとして、パラリンピックに6大会連続出場し、殿堂入りを果たした河合純一さん。講演や著書では「夢を追いかける大切さ」「夢を実現するための努力」などを、長年に渡り伝え続けています。さまざまな選手の夢の舞台となる、パラリンピックについて語っていただきました。

話す人

河合 純一さん

河合 純一さん

1975年、静岡県浜松市生まれ。15歳で視力を完全に失う。1992年のバルセロナから6大会連続、パラリンピックに出場。金メダル5個を含む21個のメダルを獲得した、日本が誇るレジェンドのひとり。現在は、日本身体障がい者水泳連盟会長、日本パラリンピック委員会委員長、早稲田大学非常勤講師、日本パラリンピアンズ協会会長などを務める。自らが語る弱み(バリア)は「目が見えず、情報を視覚で得られないこと」。逆手に取って語る強み(バリュー)は「見えないからこそ、感覚が研ぎ澄まされ、気づき、伝えられることが増えたこと」。

聞く人

垣内 俊哉

垣内 俊哉

1989年に愛知県安城市で生まれ、岐阜県中津川市で育つ。生まれつき骨が脆く折れやすいため、車いすで生活を送る。障害を価値に変える「バリアバリュー」を提唱し、大学在学中に株式会社ミライロを設立。

 

見えないという視点が、社会に気づきと価値を生んだ

垣内
垣内
垣内

河合さんがご著書で書かれていた「目が見えなくなってから、夢が鮮やかにはっきり見えるようになった」という言葉が、とても印象的でした。

ありがとうございます!目が見えなくなったのは中学生の時でした。人間は情報の8割を視覚から得ると言いますが、私の場合は音声に集中して、視覚以外から情報を得るようになったんです。

河合さん
河合さん
垣内
垣内
垣内

見えないからこそ気づいたり、感じたりすることがあったんですね。

はい。見えないという視点が、社会で役立つ気づきを生むと知り、じゃあ自分に何ができるのか?と考えるようになったんです。

河合さん
河合さん

画像 河合さん

垣内
垣内
垣内

そのように考え始めたきっかけはあったんですか?

いろいろありました。例えば私が中学生だった頃は、携帯電話もなかったので、みんな腕時計で時間を確認するわけですが、私は時間すらも一人ではわからなかった。その一面だけを切り取られたら、五歳児以下ですよね。でも、そんな自分にしかできないことがあるはずだ、と考え続けました。

河合さん
河合さん
垣内
垣内
垣内

障害による弱点だけを見るんじゃなくて、強みを活かし、伸ばそうと考えられたんですね。

そうです。自分はどんなことなら結果を出せるかな?とたくさん考えて試した結果、教員免許をとって中学校教師になったり、水泳選手になったりした、というわけです。

河合さん
河合さん
垣内
垣内
垣内

なるほど!次々と夢を追って叶え続ける河合さんがいる一方、「夢の持ち方がわからない」と悩む若者の声も多いと聞きますが……。

夢って聞くと、遠く離れたところで輝いている崇高なものと捉える人が多いように思います。違うんです。「明日までに宿題を終わらせるぞ」とか、そういう気軽な目標を夢と呼んでもいいんですよ。

河合さん
河合さん
垣内
垣内
垣内

夢の敷居を下げる、ということですね。

はい。最終的に大きな夢を持っていたとしても、常に小さな夢を達成していく繰り返しです。ちょうど先日、私も「やりたいことリスト」を100個書き出してみました。「新作のスピーカーを買う」と小さなことから、「健康でいる」と漠然としたことまでたくさん出てきました。それを見ると、自分はまだまだ生きたいんだな、それなら明日からも頑張ろう、と思えました。

河合さん
河合さん
垣内
垣内
垣内

小さな頃から今でも、夢を持ち、追いかけることがルーティーンになってるんですね。夢を叶えるためには努力が必要だと思いますが、河合さんは常に努力を続けていらっしゃいますね。

画像 垣内

努力を続けるためには、「今の自分を理解すること」が一番大切なんです。夢を叶えるって、レースに出場するようなものなんです。レースって、ゴール位置だけが決まっていても、スタート位置が決まっていなければ、走れないですよね。だって、どの方向に、どんなペース配分で走れば良いかわからないし。

河合さん
河合さん
垣内
垣内
垣内

短距離100mなら全力疾走だし、マラソン42.195kmだったら持久力が必要で、走り方が変わりますもんね。

夢を叶えるのも一緒で、まずは自分のスタート位置から決めるんです。例えば「大学の入学試験に合格すること」が夢なら、まずは模試を受けに行って、自分の偏差値を知ることからです。それで、あと何ヶ月で、どれくらい偏差値を上げなければいけないかを決めていって、初めてスタートが切れるというわけです。そのための効率の良い勉強法を教えてくれたり、やる気が出るように応援してくれたりするのが、コーチの役割です。

河合さん
河合さん
垣内
垣内
垣内

河合さんがここまで夢を追い続けることができたのも、コーチのおかげですか?

はい!特に、学校でお世話になった先生方がいてくださったからです。見えなくなって誰かを頼るようになってから、先生、友人、家族の優しさやぬくもりを知り、感謝することができました。

河合さん
河合さん

 

個性や障害は、歳を重ねるごとに変化する

見えないという自分の個性をちゃんと理解できるようになってから、夢を実現するエネルギーも強くなった気がします。

河合さん
河合さん
垣内
垣内
垣内

すごい。河合さんほど、自分の障害をポジティブに受け入れている人もめずらしいと感じます。

自分の個性って変化するんですよ。若い時は変化を見極められないから、焦るのも仕方ないんですけどね。でも、自分の成長や受け取り方によって必ず変わっていきます。今はネガティブでも、いつかはポジティブに変化するかもしれない。

河合さん
河合さん
垣内
垣内
垣内

河合さんも、個性と向き合い続けたから、ポジティブに捉えることができたんですね。

それが私にとっては「幸せとは何か?」を考えることに繋がるんです。私は、幸せって人に何かしてもらうことではなく、幸せに自分で気づくしかないと信じています。映画のワンシーンで「君を幸せにするよ」なんてプロポーズの言葉があるけど、あんなの絶対に嘘。(笑)

河合さん
河合さん
垣内
垣内
垣内

河合さんが奥様へのプロポーズした時も、それは言わなかったんですね?(笑)

もちろん!幸せの価値観なんて、例えば愛だったりお金だったり、人によって全然違うんですよ。自分で決めるしかないんです。「幸せを一緒に見つけようよ」とは言えるけど……。

河合さん
河合さん
垣内
垣内
垣内

おお!良い言葉ですね。

それと一緒で、自分の障害や個性も、良し悪しを決めるのは他人ではなくて、自分なんです。目が見えなくなるっていうピンチだって考え方によっては、チャンスになりましたからね。

河合さん
河合さん
垣内
垣内
垣内

そうですね。全盲スイマーとしての目覚ましい活躍の数々は、河合さんだからこその結果だと思います。

画像 河合さん

 

パラ大会を盛り上げる秘訣は、選手の活躍とムーブメント

東京パラリンピックの開催まで、いよいよ残り約160日(対談当時)です。日本パラリンピアンズ協会の会長として、運営組織を引っ張っていく河合さんに、東京パラリンピックを盛り上げるために必要なことについて、聞きました。

垣内
垣内
垣内

河合さんのように、障害をポジティブに捉えて挑戦を続けた選手が活躍する舞台が、東京パラリンピックです。数多くのパラリンピックをこれまで見てきた河合さんにずばり聞きたいのですが、東京大会は盛り上がると思いますか?

はい、思います。チケットの売れ行きも好調ですし、これまでの大会でも、オリンピックが終われば「もっとスポーツ観戦で盛り上がりたい!」という観客の熱狂が継続して、パラリンピックも満員になる、という流れが多かったです。でも、できれば、その前にチケットが完売してほしいなあと思いますね。(笑)

河合さん
河合さん
垣内
垣内
垣内

チケットを完売させるためには、今からどんなアクションが必要ですか?

やっぱり選手の活躍ですよね。2019年ラグビーワールドカップだって、日本チームの大活躍があって、観客が盛り上がり、国民的なムーブメントになったので。でも、実際に活躍しているパラ選手がいても、それがメディアで報道されなければ「パラリンピックで応援しよう!」と行動するまで関心を持ってもらうことは難しいです。

河合さん
河合さん

画像 対談イメージ

垣内
垣内
垣内

ここ数年で、パラ選手のメディア報道はかなり増えていますよね?

はい、増えています。でもそれって、2020年がただ近づいてきてるから、なんとなく取り上げられていることも多いんです。例えば、国内大会の様子だけとか、ドメスティックな視点でしか見られていなかったりするわけです。「日本で一位の選手は、海外での評価はどうなのか?」まで話を広げて、見せてほしいなと思いますね。メディアの人にも、世界で通用するという見せ方をしてほしいし、それを見た選手自身も強くなってほしいなと思います。

河合さん
河合さん
垣内
垣内
垣内

報道を見る対象は観客だけではなくて、選手にもですか?

はい。今のようにパラリンピックが認知されるまでのムーブメントを知らずに活動している選手も多く、もったいないなと思います。それが悪いことではないんですが、過去に思いを馳せて、行動した選手や、応援してくれた人たちに感謝をし、選手みんなで強くなってほしいなといつも願っています。

河合さん
河合さん
垣内
垣内
垣内

河合さんが自ら体現されていることですね。見る側、もっと広い意味で言えば、社会全体に求めるアクションはありますか?

うーん。結局、あと1年でできることって、限られてるんですね。だからできていないことに焦ったり諦めたりするんじゃなくて、「ここまでできたよね」「こんなことが実現したよね」と今までを振り返るのが良いと思います。じゃああと1年で、その上に何を乗せていけるのかを整理できるので。

河合さん
河合さん
垣内
垣内
垣内

なるほど、これまでのアクションを前向きに、冷静に評価するということですね。

はい。例えば、今、この対談をしている「日本財団パラリンピックサポートセンター」は一つの成功事例ですよね。バラバラだったパラリンピックの競技団体が集まって、同じオフィスで働いたり交流したり、というのは初めての取り組みですから。2020年以降、今度はオリンピック・パラリンピック両方の競技団体が集まるような場所に進化できれば、もっと素晴らしいんですけどね。

河合さん
河合さん
垣内
垣内
垣内

オリンピック・パラリンピックのマスコットキャラクターの選定も、一つの成功事例だったと思います。未来を生きる子どもたちに投票で参加してもらい、盲学校などの特別支援学校の子どもたちにも協力してもらうことができた、大きなイベントでした。

東京が挑戦し続けている、ダイバーシティのアクション

東京パラリンピックは特に「人間の根底にあるダイバーシティ」を、アクションに落とし込んでいこうとチャレンジしているのがすごく評価できます。例えば、組織委員会の公式グッズに「弱視の人が見やすい、黒い紙のノート」というのがあるんです。やっぱり目立つらしいので、お店でそれを手に取った人は自然と「ああ、こういう工夫が障害のある人に役立つんだな」って気づくと思うんです。

河合さん
河合さん
垣内
垣内
垣内

そうですね。ボランティアの方々も、障害のある方や妊婦の方など、移動が不自由な来場者へのサポートの研修を受けています。一人ひとりの小さな取り組みが積み重なって、大きなうねりを生む、良い大会になると思います。

私はよく「ハードのバリアは、ハートで越えよう」と伝えているのですが、ボランティアに期待される活躍は正にそれです。1年で間に合わない準備も、もちろんあるわけなので。例えば5年前のリオ大会、開会1年前に視察へ行ったのですが、私が到着した時にはまだ会場は工事中でした。当時に比べれば、東京の準備は早い方だと思います。それでも、やっぱり、ハード面が不十分なところってどうしても出てくると思うんです。そんな時に、困っている人々をハートというマンパワーで助けられる人が増えてほしいです。

河合さん
河合さん

画像 河合さん

垣内
垣内
垣内

河合さんは、東京パラリンピックが終わった後、どんな効果が起きてほしいと思いますか?

選手も、観客も、ボランティアも、関わった人たちみんなが大会終了後に、自分が暮らす街や職場や学校で「障害者や外国人がいないことに違和感が持てる人」に育ってほしいなと思います。世の中には多様な意見があって当たり前、一つの正しい答えはない、だからこそより多くの人が共感を得られる答えの見つけ方を学んでほしいんです。

河合さん
河合さん
垣内
垣内
垣内

素敵ですね。2020年までの一過性のムーブメントではなく、その先も続いてほしいです。

本当にそう思います。東京パラリンピックは2020年で終わるけど、人が人である限り、スポーツはなくならないんです。どうすれば一人も取り残さず、みんなで楽しめるスポーツを発展させられるかというのが、私の使命ですね。

河合さん
河合さん

自分に気づきや夢を与えてくれたのが、スポーツという存在。スポーツに心から感謝し、恩返しをしていきたいと、河合さんは思いを馳せます。

垣内
垣内
垣内

今これを読んでいる人の中に、「自分も河合さんのようにパラスポーツを盛り上げたいが、何をしたら良いかわからない」という人もいると思うんです。

夢の決め方と一緒で、ハードルを下げていいんですよ。例えば、SNSでパラスポーツや選手の投稿を見たら、いいねを押すとか、シェアするとか。それだけでいいんです。

河合さん
河合さん
垣内
垣内
垣内

それだけなら、今すぐにでもできますね!

私の場合は、より多くの人に読んでもらうため、ただシェアするのではなく、必ず一言自分の感想を書いてシェアするようにしています。さらに関心がわいたら、試合を観に行ったり、会いに行ったり。そういうちょっとしたアクションが、広がっていくんですよ。

河合さん
河合さん

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夢への努力は今しかない!―全盲の金メダリストからの伝言

夢への努力は今しかない!―全盲の金メダリストからの伝言 (新風舎文庫)

 

河合純一さんは、15歳の時に全盲となるが、当時抱いていた“夢”-教師になること、水泳で世界一になることを実現。「目が見えないのは僕の個性」と言い切り、全盲というハンデキャップをものともしない姿勢は、障害を持つ者だけでなく、健常者を力強く励ます。