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でも、お墓参りになるとどうでしょうか。「伝統あるもの」「家族の集う場」「祈りとやすらぎ」など、大切な儀式という認識が浮かびませんか。
従来のお墓のイメージを覆し、「明るく」「訪れやすく」「大切な時間をゆったり過ごせる」といった、まったく新しい霊園づくりに挑戦し続けている会社が、大阪にあります。
霊園・ハピネスパークを運営する、株式会社西鶴の山本一郎さんにお話をうかがいました。
1966 年大阪府生まれ。「お客さまにハピネス(幸せ)を提供する」をモットーに、家族で訪れたくなる霊園開発を行う、株式会社西鶴の代表取締役社長。日本拳法白虎会の師範も務め、有段者 100 名以上を輩出し、25年間で各大会 500 回以上の入賞者を輩出。
作家・エッセイスト。2020年2月まで株式会社ミライロで広報部長を務めたのち独立。所属事務所は株式会社コルク。講談社「小説現代」、「ほぼ日刊イトイ新聞」などで連載。「文藝春秋2020年1月号」巻頭随筆を担当するほか、NewsPicksプロピッカー&アカデミア講師、AbemaTV「けやきニュース」コメンテーターとしても出演。
今回は、西鶴さんが 2018年4月に新しくオープンした霊園「ハピネスパーク 千年オリーブの森」にやって来ました!
到着してまず、ど真ん中に生えているオリーブの木に圧倒されてしまいました。壮大すぎる……。樹齢 1000 年って本当ですか!?
本当ですよ!プラントハンターの西畠清順さんにご協力いただいて、スペインからはるばるやってきてくれたオリーブです。
なぜ霊園にオリーブの木を?
オリーブって、地球上に存在する木の中でも特段に長生きする木なんです。縁起がよくて生命力にあふれる木に見守られながら、安らかに眠っていただきたいなと思ったんです。
たしかに……。1000 年もこの木がなにを見てきたのか、私には想像もできないくらい長い時間です。
あと、オリーブって昔から人間とともにあり、人間を助けてくれた木なんです。実からはオリーブオイルが取れるし、ピクルスにして食べることもできます。灯りがない時代には、たいまつとして使っていたという記録もあります。
オリーブ、めっちゃ役に立つんですね。
樹木葬で眠る方の中に、跡継ぎが残せなかった方もいるのですが、せめて何度も実をつけ、人に寄り添い続けるオリーブの木に想いを託したい……と思ってくださったそうです。
霊園とこんな立派なオリーブ、アンバランスだなあと思ってたら全然ベストマッチだった……!
西鶴が運営するもうひとつの霊園「ハピネスパーク牧野」のエントランス付近にも、オリーブの木が植えてあります。オリーブの実がなる時期には、故人の家族たちが集まり、談笑しながら実を収穫して、美味しいオリーブオイルを作るというイベントも大人気だそうです。
とにかく、明るくてきれいな霊園を作りたかったんです。ハピネスパークは、ヨーロッパの公園やリゾートホテルの外観からインスピレーションを受けて開発しました。
公園!そう!そうです!はじめてハピネスパークを訪れたとき、霊園っていうイメージがまったくなくて、オシャレな公園みたいだなと想いました。
従来のお墓のイメージって「暗い」「怖い」「汚い」が当たり前だったと思うんです。それを
覆したかったんですよ。
ああ……ゲゲゲの鬼太郎のイメージですね。夜は墓場で運動会。
でもね、申し訳ないけど、そんなお墓に何度も足を運びたい人っていますか?
うーん。お墓参りや、なにか報告があったら足を運びますが、「お墓にフラッと散歩しに行きたい!」とか思うことはないですね。
そうでしょう。お墓参りって「悲しみを癒やすため」や「故人との思い出を振り返るため」など、最後にはポジティブな気持ちになって帰ってもらいたいのに、まずお墓の雰囲気がそうじゃなくて。だから、明るい気持ちで足を運べる霊園を実現したんです!
私、実は15年前に亡くなった父のお骨がまだ実家にあるんです。母が車いすなんですが、地元の霊園はどこも階段や坂道だらけで、母が行けないとこばっかりで。しかも古いし暗いし、そんなところで父を一人で眠らせるのはどうにもつらくて……。
わかります、わかります。霊園に埋葬するより、手元に置いておいた方が気持ちが楽という方を何人も見てきました。つらいですよね。
2019 年 11 月、ミライロ・リサーチが車いすユーザー100 名に実施した「霊園・墓地利用に関する意識調査」によると、半数以上の人が「バリアフリーが整っていない」と感じていることがわかりました。その中でも、回答数が多かった課題は「段差がある」「傾斜がある」「通路が狭い」でした。
ハピネスパークは、この調査結果の課題をすべてクリアされていますね。道はフラットだし、車いすでラクラク通ることができそう。
はい。とにかく、車いすユーザーやご高齢の方がストレスなく移動できる道を確保しました。道が広いので、貸し出している椅子を置いて、ゆっくりお参りされている方もいます。それはそれで、広くしてよかったなあと思いました。
ハピネスパーク牧野の導線。車いすやベビーカーなどもスムーズに移動できるよう、広い導線で設計されています。
こんな工夫もあるんですよ。
あっ!ジョウロの位置が低い!っていうかカワイイ!
水道の位置も低くしています。
本当だー!これなら車いすの人、腰の曲がっているご高齢の人、小さなお子さんが水を入れやすいですね。
自力で水を入れることが難しい方も、楽に作業できるように作りました。
かゆいところに手が届く工夫ですね。霊園でここまで配慮してくれているところは、他になさそう。
多目的トイレもあります。オストメイト(人工肛門・膀胱を使用している人のための設備)にも対応しているんですが、これはうちのスタッフの声がきっかけで用意しました。
どんな声だったんですか?
もともとは介護の仕事をしていたスタッフなのですが、その時にオストメイトの方と話す機会があったそうです。「障害があるけど自分でできることは、できるだけ自分でやりたい」と言っているのを聞き、スタッフから「お一人で利用できるお手洗いがあれば、お墓参りもしやすくなると思うんです」と提案され、すぐに対応しました。
対応が早すぎる……!
そうしたら次は、お手洗いの他にも、どこかでゆっくり休憩するスペースもあった方が良いんじゃないかって話になって。だからここは管理棟の建物が2つあるんですよ。お客さんに休んでもらえる場所を作ったので。
お墓の数に対して、管理棟がでっかいなと思ってました。
最初は建築家の人にも、工務店の人にも「なんで2つも!?」って言われ続けました。(笑)
やっぱり新しい霊園を作るというのは、反対されましたか?
協力してくれる人たちにはびっくりされましたが、反対はされませんでした。でも、まったく関係のない人たちからは「うまくいくわけがない」「採算が取れないだろう」と言われてしまいました。
そもそもここハピネスパーク 千年オリーブの森は、長年低迷を続けていた霊園を西鶴に再生を依頼し、中途半端では低迷を打破できないので、イメージを覆すように開発したそうです。もっと駅からアクセスの良い霊園が周辺にある中で、再生は難しいだろうと誰もが予想していたと、山本さんは言います。
でも蓋を開けてみれば、霊園はご好評をいただけて。お墓の区画がどんどん埋まっていくので、反対していた人から、最近では「うちの霊園の相談にも乗ってほしい」と言われています。(笑)
そりゃあ、こんな素敵な霊園になったんだから納得できます。
管理棟の中もぜひ見てください。たぶんびっくりされますよ。
えっ……。
か、歌手の絢香さんの樹だ!!!!!!!!!!なんで!?!?!?!?!?!?!?
アートディレクター・森本千絵さんから譲り受けた作品で、楽樹と言います。絢香さんのベストアルバム「THIS IS ME~絢香 10th anniversary BEST~」のジャケットに登場した樹
ですね。
いや、なぜそれがここに!?!?!?!??!!
その顔を見たかったからです。(笑)
めちゃくちゃびっくりしましたけども!そして実際に見るとカラフルで素敵すぎる……。
お客さんにびっくりしてもらったり、喜んでもらったり、感動してもらったりしてほしくて。作品の展覧会が終わった森本さんに話してみると「そういうことなら」と快諾してもらったんです。
これは見とれてしまいますよ。
楽樹は、過去大切に使われていたギターやサックスなどの楽器を使って作られているんです。役目を終えた楽器が、木を明るく彩ってくれるっていうのも、ピッタリだと思って。生きている人も故人も必ず使ったことにある楽器があり、故人を思い返す場となくれたらって良いと思い、この楽樹が必要だったんです。
オリーブといい、楽樹といい、ぜんぶいい話すぎる。あとさっき廊下に、村上隆さんが描いたドラえもんの絵画もありましたね。まるで美術館のよう……。お客さんの反応はどうでしたか?
見ているだけで楽しいと、とても喜んでいただけます。でもそれだけじゃないって、僕らも気づかされたことがあって。お客さんの中に、お子さまを亡くされた方がいたんです。思い出すたびにつらいのですが、そのお子さまの、まだ小さなご兄弟を連れてご家族がお墓を見に来られたことがあって。
ああ……。
そうしたら、そのご兄弟が「こんな楽しい木があって、ドラえもんもいるなら、さみしくないね」と言ってくださって。僕たちはあまりお客さんに感情移入をしてはいけないんですが、この時ばかりは胸がいっぱいになってしまいました。
私はその子の気持ち、とてもわかります。父ができるだけ寂しくないような場所を選びたいです。
立派な作品があるから故人が必ず喜んでくださるわけではないと思います。でも、少しでもご家族の心が休まるなら、明るい気持ちになれるなら、そのお手伝いができて本当によかったです。
さて、日も落ちてきましたし、ちょっと外へ出ましょうか。
ほかにもまだなにか……ウワァーーーーーーーーー!!!!!!!!
なんだこれは……幻想的すぎる!
ハピネスパーク 千年オリーブの森では、こういったライトアップのイベントも開催していきます。ライトアップは初の試みですが、お客さんをご招待してのバスツアーなども実施しています。例年の人気プログラムは、京都への特別拝観(普段は拝観できないお寺や神社の内部を巡る)です。
お客さんっていうのは、お墓で眠る故人のご家族ですか……?
もちろんご家族もいますが、ハピネスパークは生前に区画を購入してくださるお客さんも多いので、その方々も来てくれます。
お墓を生きている間に購入するんですか?
最近は増えていますよ。自分が亡くなった後に子どもたちに苦労をかけたくないとか、家族がお参りしやすい場所を選びたいとか、理由はいろいろです。
なぜ、そういう方々のためのイベントをたくさん実施するんですか?
ここで思い出を作ってもらいたいんです。大切な人が亡くなるというのは、どうしたって悲しいことです。でもお墓参りの度に「ここで一緒にオリーブを見たね」「この時期にバスツアーへ行ったね」「ここのスタッフさんと話したね」と思えれば、少しでも心の拠り所になるんじゃないかと思って。
なるほど……生前にお墓を買うのは、その場所でできるだけ多くの思い出を作っていく、という意味もあるんですね。素敵だ。
これはハピネスパーク 千年オリーブの森を空撮した映像です。皆さんもこの素敵な霊園に足を運んだつもりで、見ていただくことができます。
残念ながら、時代の移り変わりとともに、お墓参りの文化は薄れてきています。でも本当は、お墓参りってすごく意味があることで。家族が集まって絆を深める場でもあり、逃げ出したい時に拠り所となる場でもあり、ゆっくりと心を落ち着ける場でもあるんです。故人を思い返す事が一番の供養だと思います。
今日ここを訪れて、私もお墓参りの大切さがよくわかりました。
お墓参りの文化を後世に残したくて、ハピネスパークをつくりました。子どもたちが「お墓参りに行きたい」と思えるような霊園を各地で実現する。それが私の使命だと思っています。