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2018年10月20日

障害のあるお母さんに育てられた僕らの共通点・後編「娘・息子の運命ってあると思う」

岸田 奈美 Nami Kishida

障害のあるお母さんに育てられた僕らの共通点・後編「娘・息子の運命ってあると思う」

前編はこちらからお読みいただけます。

障害のあるお母さんに育てられた僕らの共通点・後編「娘・息子の運命ってあると思う」

車いすに乗る母を持つ、岸田奈美。耳の聴こえない母を持つ、安藤一成。二人の共通点あるある話は尽きません……。

愛情をもらって育てられたという自信がある

一成)
僕、ものすごく愛情をもらって育てられたっていう自信があるんです。

奈美)
いきなりどうした。私もあるけどさ。

一成)
僕みたいに、聴覚障害のある親を持つ子どものことを、コーダって言うんです。コーダだからこそ、母と触れ合う回数は、普通の子どもより多かったと思います。

奈美)
それはなんで?

一成)
物心ついた時から、自然と僕が母の耳の代わりをしていたからです。例えば家の中にいてインターフォンが鳴れば母へ教えに行きましたし、外を歩いていて後ろから自転車が来たら合図していました。誰に言われるでもなく、母に音を伝えることは当たり前になっていたので、自然とコミュニケーションを取る時間は長くなりました。

奈美)
なるほど!喧嘩はしなかったんですか?

一成)
しましたよ。よく覚えているのは、5歳くらいにした喧嘩ですね。

奈美)
めっちゃ前ですね!(笑)

一成)
5歳の時は、幼稚園であった色んなことを母に話したかったんだけど、口話や身振り手振りじゃ全部伝わらなくて……。「もっと話したいのに!」って不満が溜まって、母に怒ったことがありました。その時は母から「じゃあ耳が聞こえる、よそのお母さんのところに行きなさい!」って言われました。(笑)

奈美)
よそのお母さん。(笑)

一成)
母からは、怒られたこともめちゃくちゃあります。でも、最終的に僕がどんな状況にいても、一番の味方になってくれたのは母なんです。怒られるし叱られるんですが、それはあくまで僕の行為に対してのことで、僕自身のことは信じてくれていると言うか……。

奈美)
私もそうです!例えば「宿題をやらなかったこと」とか「嘘をついたこと」とか、その行為についてはめっちゃ怒られるんですけど、「だから奈美ちゃんは駄目なんだ」とか自分を否定されたことは一切ないんですよ。だから、理不尽や気分で怒られたって経験がなくて、怒られた理由には全部納得してます。

一成)
自分自身を否定されたのか、行為だけを否定されたのか、って大きな違いですよね。同じ厳しさでも、全然違うと思う。

奈美)
はい。甘やかされたとか、好き勝手しても許された、とかっていうこともないんです。他の人から見たらどうなるかはわからないけど。

一成)
どんなことがあっても、「母は味方でいてくれる」っていう自信があったから、思い切って挑戦もできたし、好きなことに打ち込めたし、僕は幸せだと思います。

奈美)
私のお母さんも、私が色んなことに挑戦する中で「それは失敗するだろうな」って確信を持っていたことが何度もあるらしくて。それでも挑戦を阻止するんじゃなくて、「やるだけやって失敗したとしても、味方でいよう。その失敗で強くなるはずだから」って思って見守ってくれてたそうなんです。実際、アホほど派手な失敗ばっかりして強くなった……と思う。

一成)
凄まじい努力をしてきた母が味方になってくれるから、自信も持てますよね。これが愛情ってやつか、って思います。

奈美)
愛情ってやつですね。ここまでしてもらったら、やっぱり「障害があるお母さんがいて不幸」なんて到底思わないですよ。

母のもとへ生まれてきたのは運命だと思う

奈美)
不幸とは思わないって言ったけど、他人から見ると私って、信じられないほど不幸だと思うんですよ。

一成)
あー……凄まじい経験されてますもんね。

奈美)
まず知的障害のある弟が生まれて、中学二年生の時にお父さんが病気で亡くなって、高校一年生の時にお母さんが手術の後遺症で下半身麻痺になって……。自分のことだから「そうは言っても、今まで生きて来れたんだし……」って軽く捉えてしまうけど、よくよく字面だけで見たらとんでもない不幸に見えるだろうなと。

一成)
そのギャップは経験してる本人にしかわからないことですよね。

奈美)
でも私は、「この境遇があったから、家族を助けなくちゃいけない!」って思ったことも、誰かに「助けてあげなさい」と強いられたこともないんです。今、ミライロでお母さんと一緒にユニバーサルデザインの仕事をしていますが、それも全て偶然で、ただ自分の好きなことを選び続けたら、ここにたどり着きました。

一成)
好きなことを選び続けてきた、って言うのも、さっきの「お母さんが味方でいてくれる」っていう安心があるからですか?

奈美)
その通りです。私は小学生の時に、父からMacのデスクトップPCをプレゼントされたんです。当時、そのくらいの年齢でPC持ってる子どもなんていなかったんですが、触り始めるとめっちゃ楽しくて……気がつけばタイピングやデザインができるようになってました。

一成)
小学生で!?

奈美)
そうなんです。大学に入学できたのも、母が当時アルバイトしていた整骨院の先生が、たまたま受験英語を見てくれることになって……。塾に行くお金が無かったので、あの先生と出会えなかったら、とても入試には受かりませんでした。「なんとなく良いな」って思って選んだ学部が主催したイベントで、ミライロ代表の垣内に出会って、創業メンバーとして加入しました。その時も、好きで培ってきたPCスキルが役になって、戦力として認めてもらえたんです。

一成)
それで今、ひろ実さんと一緒にお仕事されてるんですもんね。講演で引っ張りだこになって、本まで出して……。

奈美)
偶然と奇跡の連続ですよ。どれか一つでも欠けてたら、今の私はありませんでした。それも全部自分で選んできたことだから、後悔もないです。

一成)
あー……。僕、運命ってあると思うんです。僕とか奈美さんみたいに、「安藤美紀の息子」「岸田ひろ実の娘」として生まれてきた理由みたいなものが。

奈美)
なにそれ、かっこいい。

一成)
僕の母は、僕を妊娠した時に周囲から猛反対されたそうなんです。耳が聞こえない親が、子どもをまともに育てられるわけないって。

奈美)
うわあ……。

一成)
でも、母をかばってくれたのが叔母だったんです。叔母が「産みなさい。この子(僕)は、いつか美紀を助けてくれる。美紀の大切な耳になってくれる」って。母は子どもが出来にくい身体だったにも関わらず、僕を妊娠したことには絶対に意味があるって、言ってくれたんです。僕がこの話を知ったのはつい最近だったんですけど。

奈美)
すごい。今、鳥肌が立っちゃった。

一成)
僕が生まれてから、僕が経験してきたことは全部無駄じゃないと思えるんです。小学生の頃から僕は歌が好きで……。僕が歌ってるのを見て、叔母と母が「一成は歌がとても上手いから、歌のスクールに入りなさい」って言ってくれて。そのスクールで歌とダンスの練習をしました。

奈美)
そういうスクールって厳しいイメージがあるんですが、歌の練習が辛いとかしんどいとかは思わなかったんですか?

一成)
それよりも楽しいという気持ちの方が大きかったです。祖母が歌手だったので、その血かもしれないなって思いました。

奈美)
それも偶然ですよね。私もお父さんが起業家だったから、ベンチャー企業で働くことに憧れがあって、ミライロへの加入もあまり抵抗がなかったし。

一成)
僕の場合は、歌を仕事にしようと思って、大学は芸術大学の音楽学部に入学しました。音楽理論、作詞や作曲の技術を学びました。

奈美)
今、一成さんがやっている手話パフォーマンスも、入学前から興味があったんですか?

一成)
いえ、手話パフォーマンスの存在を知ったのは遅くて……大学3回生の頃でした。むしろ僕、手話も最近までできなかったんですよ。

奈美)
ええっ!?

一成)
正確には、今年の1月から勉強し始めました。

奈美)
美紀さんがバリバリ手話使いながら話されているので、てっきり一成さんも手話ができると思っていました。なんなら、コーダの人は手話ができるものだとばかり……。

一成)
母とはずっと口話とジェスチャーで話すことができていたので、あまり手話を使わなかったんです。コーダの中にも、家族の影響で手話を使いこなす人もいれば、全く手話を使わない人もいるんですよ。

奈美)
それじゃあ、どうして手話を覚えようと思ったんですか?

一成)
昔から、母と一緒に歌を楽しみたいっていう夢があったんです。音楽は聞こえなくても、手話や表情で、聴覚障害のある方に歌の楽しさを伝えられると知って、手話パフォーマンスに惹かれました。

奈美)
そのきっかけも美紀さんだったんですね!私も母がきっかけでミライロに加入したので、今の活動のきっかけも共通していますね。

一成)
はい。聴覚障害のある方に楽しんでもらいたい、という気持ちももちろんありますが、究極的には僕が歌うことで母が喜んでくれるのが一番の原動力です。母のためにと思って続けたことが、もっと多くの人の役に立つなら嬉しいです。

奈美)
手話パフォーマンスでは、どんな歌を歌っているんですか?

一成)
代表曲は二曲あります。一曲目は「ほじょ犬って知ってる?」という歌で、これは盲導犬・介助犬・聴導犬という三種類の犬の仕事について楽しく学べる歌詞です。二曲目は「Be Happy」という歌で、聴覚障害のある人、コーダの人、聞こえる人などみんなが楽しく日々を過ごせるように願いを込めました。

 

 

奈美)
一成くんが歌うことが、大人から子どもまで誰でも聴覚障害やほじょ犬について知ることができるんですね。

一成)
この活動も、母と一緒に過ごしてきたこと、僕が歌のスクールに入ったこと、大学で音楽を学んだことなど、たくさんの偶然があったからこそです。もっと遡れば、僕の母に「産みなさい」と言ってくらた叔母の存在も。母と、母の周りの人たちが何気なく僕にくれたものが、今に繋がっています。

奈美)
それが、さっき言っていた「運命」ですね。

一成)
この活動について、一度も母から「やりなさい」って強いられたことはないんですよ。ただ僕が、自分が楽しい方の道を選んできただけで。

奈美)
私もそうです。むしろ最初は、ミライロみたいに学生の内からベンチャー企業へ加入することにお母さんはちょっと反対していて、それを私は押し切った形でした。それでも自分で選んでやり続けていたら、いつの間にか母と一緒に仕事をするようになっていました。

一成)
案外、そんなものかもしれませんよね。障害のある母を助けようとか、面倒を見ようとか、そう言うネガティブな気持ちは一切なくて、ただ「ワクワクする」方を選んだだけ。

奈美)
っていうか、私のお母さんは明るくて強くて人気者で、私が一緒にいなくてもきっと一人でやっていけると思うんですよね。(笑

一成)
はい。僕の母もめちゃくちゃ強いです。

奈美)
それでも、「今が一番楽しい」って思えるのは、やっぱり運命なんですね。運命って言うと「逆境」とか「試練」っていうイメージがあるけど、そうじゃないですね。障害のある母を持つ、私たちにしかできないことがあるよって神様が言ってるのかもしれない。

一成)
僕はそう思っています。歌という手段で、母みたいに聴覚障害のある人、僕みたいにコーダの人、聞こえる人が一緒に生きていける社会を創っていくのが僕の役割だと。

奈美)
私たちがそう思えるのは、自分は努力しながら、愛情をいっぱい注いでくれた母を間近で見てきたからなんでしょうね。自分のルーツを再確認できて、とっても気持ち良かったです。一成さん、ありがとうございました。

一成)
こちらこそ、こんなに母の話をわかってくれる人がいるなんて、初めての経験でした。楽しかったです!

 

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