ノウハウ 施設・設備
2020年06月26日

インクルーシブな演劇空間を実現する6つのポイント【前編】

苫米地 麻衣

演劇公演を行う劇場では、毎回異なる多様な方々が劇場を訪れます。
そのため、どのニーズにも対応できるインクルーシブな空間づくりが必要となります。

今回は、国土交通省が策定した「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準(平成28年度版)」をもとに、インクルーシブな演劇空間を実現する6つのポイントについて前編・後編に分けてご説明します。
本記事では、ポイント①~③をご紹介します。

ポイント①誰もが同じように利用できる動線を計画する

劇場では、障害者や高齢者が他の利用者と同じ経路を利用できるように、バリアフリー化・ユニバーサルデザイン化への整備を行うことが求められています。

【具体的な例】

  • 段差のない床やエレベーター、自動ドアの設置を行う。
  • 段差の解消が難しい場合は、スロープ階段昇降機などを設置する。
写真 劇場入り口のスロープ

特に、観客がメインで使用する出入口・駐車場から客席までの動線は、念入りに計画しましょう。
また、出演者が障害者や高齢者となる場合もあります。
出入口・駐車場、楽屋から舞台への動線についても、ユニバーサルデザイン化の配慮が必要です。

ポイント②適切な寸法を計画する

多様な利用者に対応するためには、それぞれのニーズに合わせた、適切な寸法を知る必要があります。
例えば、一言で障害者といっても、障害の程度や状況により、求めるニーズは異なります。
そこで、障害のある当事者を含めた利用者とともに、寸法の検討を行う必要があります。

【具体的な例】

  • 客席空間内で区間 50m以内ごとに、車いすが転回できるスペースを140×140cm以上設ける。通路幅を120㎝以上確保する。
  • 車いすユーザーが前列の人の頭や、肩越しに舞台を見ることのできる視線(サイトライン)を確保する。サイトラインは、多様な車いすユーザーの目線の高さをもとに検討する。
  • 視覚障害者や聴覚障害者が、客席から上演内容や非常時の情報を得るための設備スペースを確保する。

特に、公演開始時や終了時、休憩時間など、短時間に多くの人が利用する場所では、ゆとりのあるスペースを確保するように心がけましょう。

ポイント③多様なニーズに合わせた客席の種類を提供する

障害者や高齢者が、同伴者や他の観客から孤立しないように複数の位置や種類、価格帯から客席を選べるようにしましょう。

写真 客席

 

【具体的な例】

  • 車いすユーザー用の客席は、全体の客席数のうち、0.5~1%以上の客席数を設置する。さらに、2か所以上の異なる階、位置に分けて設置する。
  • 乳幼児連れの利用者や、知的障害者、発達障害者、精神障害者に配慮した「個室空間」を設けることで、周囲を気にすることなく観劇を楽しめるようにする。
  • 座った姿勢を保つことがむずかしい利用者のニーズに合わせて、桟敷スペースなどを活用することで、観客自身にとって楽な体勢をとれるようにする。

誰もがよりいっそう観劇を楽しめるように、多様な利用者に合わせた客席を設置することが求められます。

まとめ

以上、インクルーシブな演劇空間を実現するための、3つのポイントについてご紹介しました。

誰もが同じような動線を利用できる。
自由に客席を選べることで、より観劇を楽しむことができる空間をつくる。
この機会に、インクルーシブな演劇空間について、考えてみてはいかがでしょうか。

次回の後編では、残りの3つのポイントについてご紹介します。


誰とでも気軽に訪れることができるレジャー施設とは?

資料ダウンロード(無料)

インクルーシブな空間づくりに関するご質問、ご相談はこちら

お問合せフォームはこちら