誰もが働き方を選択できる「職場での障害者インクルージョン」と新型コロナウイルス

合澤栄美


新型コロナウイルスの感染拡大により、世界中の人が、自由な外出、スムーズなコミュニケーションなど、これまで「普通」と思っていたことができないという不自由さや、孤独な気持ちを経験をしています。

でも、障害者はこのような思いを日常的に感じてきたのです、という記事「新型コロナウイルスにより孤立した世界は、障がい者にとって日常的なこと」が世界経済フォーラムのウェブサイトに掲載されました。

感染から従業員や顧客を守るために、多くの企業が迅速な対応を取り、時差出勤や在宅勤務、オンライン会議システムの導入などが進みました。
この記事を執筆した、視覚障害のある起業家のCaroline Caseyさんは、このような痛みが共有され、働き方が急激に変化している今こそ、誰も取り残されないようにビジネスのあり方を変えるチャンス、と主張しています。

 

見えてきた、可能性と課題

日本でも、多くの企業でフレキシブルな働き方が推進され、オンライン会議システムが活用されることで、障害のある方が活躍する機会が増えることが期待されます。
一方で、障害に関連する理由で、これらの制度やシステムを利用できない人がいるという課題も見えてきました。

例えば、「勤め先に在宅勤務の制度がある」という障害者のうち、「実際に在宅勤務をしている」のは6割に留まっている、という調査結果があります。


在宅勤務をしていない理由や困りごとについて聞いてみると:

・在宅勤務用のパソコンでスクリーンリーダーや点字ディスプレイが使えない(視覚障害)
・自宅のノートパソコンでは拡大表示ができずモニターが見えない(視覚障害)
・自宅用の車いすに長時間座っていると体が痛くなる(肢体不自由)
・一人で自宅にいると集中できず仕事が思うように進まない(発達障害)

という声がありました。
環境整備に関する課題が、在宅勤務を難しくさせている面があることが伝わってきます。

同じ調査の結果から、オンライン会議への参加にバリアを感じている障害者がいることもわかります。

・オンライン会議で利用するソフトが画面読み上げソフトに対応していない(視覚障害)
・音声が聞き取りづらい(視覚障害)
・オンライン会議システムと音声認識アプリが併用できない(聴覚障害)
・画像が荒くて、口元が読み取りづらい(聴覚障害)
・電話やビデオ通話をしながらメモを取るのは大変(肢体不自由)
・大きな声が出しづらいため、自分の声がマイクに拾われにくい(肢体不自由)

これらのコメントから、オンライン会議に出席はしているものの、内容を十分に把握できない方、自分の意見を述べ、参加することに難しさを感じている方がいらっしゃることが推測されます。

 

オンライン会議をよりインクルーシブにする工夫

海外の企業も、コロナウイルスの影響をふまえ、障害のある従業員にどのような配慮をすべきか模索中です。
ここでは、イギリスのBusiness Disability Forumの取り組みを紹介します。

Business Disability Forumは、ビジネスにおける障害者のインクルージョンに関する情報や企業へのアドバイスを発信しています。
5月中旬には、オンライン会議への聴覚障害者の参加に関するウェビナーが開催されました。

聴覚障害者は、会議資料、発表者の表情や口元、手話や字幕など、様々な情報を同時に取り入れなくてはいけません。
そのようなストレスを軽減するのは、主催者や聞こえる側の責任であり、例えば、こんなことができるという具体的な工夫が紹介されていました。

事前に会議案内の時点でアジェンダを共有する
資料を渡しておく
会議の際に使用するツールや情報保障の方法について確認する

事前にこのような情報があれば、聴覚障害者側でも、タブレットを追加して準備する、などの対応ができます。

当日、会議の少し前に主催者と聴覚障害者は入室し、情報保障のツールが使えるかチェックします。
会議中は、ゆっくり話し、必要に応じて時々休憩を入れます。
そして、一つの話題が終わり、次の話題にうつる時には少し間を空けます。
字幕や手話でタイムラグがあり、急に話題が変わると、ついていくのが難しいためです。
そして、話している人はカメラをオンにして、表情がわかるような照明の当たり方にすること。
顔出しは嫌という人もいますが、これは、好き嫌いの問題ではなくて情報保障であるということを参加者に伝え、協力を得ることも、主催者の責任です。

このようなグラウンドルールを設定することは、聴覚障害のある方のみならず、全ての人が参加しやすい会議の運営につながると思われます。

 

多様化した働き方を誰もが享受するために

先に紹介した調査では、

「障害に対する理解のない職場では、当事者が不自由さを指摘しづらいので、障害者が意見を言いやすい職場にしてほしい」

という声も聞かれました。
コロナウイルス影響下で働き方が変化する中で、不便を感じているけれども職場の上司や仲間に話せずにいる、という人もいるかもしれません。

新型コロナウイルス対応の経験を今後に生かし、誰もが多様な働き方を選択できるインクルーシブな職場を実現するに、企業は何をすべきでしょうか。

まず、基盤となる取り組みとして、「働き方の選択肢の提供」「障害者が意見を言いやすい環境作り」があります。
これには、障害がある人も無い人も同じように働き方を選べるようにするという方針と、多様性や人権に対する従業員の理解を深める継続的な取り組みが必要です。

そして、働き方の変化に関する個々のニーズを確認し、不自由を感じていること、どんなサポートがあれば助かるかなどを聞き取り、一緒に対応を考えます。
全てをすぐにはできなくても、可能なことから実践し、改善に向けた取り組みを継続していきます。
さらに、そのような方針や対応事例について、社内外に情報発信することは、障害のない社員の理解を促進すると同時に、障害のある社員を勇気付け、また、その情報に触れた、障害のある優秀な人材を獲得することにもつながる可能性があります。

 

まとめ

社会や職場が急速に変化している今こそ、障害のある方がどんなことに不自由を感じているか、どんな配慮を望んでいるかに耳を傾けることが大切です。

ミライロでは、障害のあるリサーチモニターの協力を得て調査を実施し、障害者の視点をインクルーシブな社会づくりに生かしています。
また、オンライン会議における情報保障など、障害者も働きやすい職場づくりに向けたご案内も行っています。
ぜひ、お気軽にお問い合わせください。

関連リンク:新型コロナウイルスの影響実態調査結果




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合澤栄美

合澤栄美

株式会社ミライロ 事業推進室。 JICAに21年勤務し、60ヵ国以上を訪問。発展途上国の障害者の社会参加を推進する事業に主に携わる。 インクルーシブな社会の実現に向けた、ビジネスの役割の大きさや可能性を感じてミライロへ入社。 グローバルな事業の展開に向け、海外との接点を増やす役割を担っている。