本セミナーは、
「障害者がどんな日常生活を送っているかを知りたい」
「障害者の日常生活における困りごとを知りたい」
「障害者が日常生活でどのような工夫をしているのかを知りたい」
というお声から開催が実現いたしました。
これまで、車いすユーザーの社員・岸田ひろ実と、全盲の社員・原口淳が、障害者としての日常を「料理」「洗濯」「掃除」のテーマごとにお話ししました。
全国から参加してくださった57名の皆さま、誠にありがとうございました。
開始したイベント内容をレポートでお伝えします。
イベント概要
・日時:2020年7月20日(月)16:00~17:15
・場所:オンライン(ZOOM)
・登壇者
株式会社ミライロ 岸田ひろ実(きしだ ひろみ)
日本ユニバーサルマナー協会理事。夫の突然死、知的障害のある長男の出産の後、自身が心臓病の後遺症により下半身麻痺に。絶望を希望へ変えた経験から、人生観や教育など幅広い分野で講演活動を実施。
株式会社ミライロ 原口淳(はらぐち じゅん)
生まれつき全盲の視覚障害がある。学生時代に放送コンクールの全国大会に出場した経験から、見えな いからこそ伝えられることがあると気づき、講演活動を開始。地元・兵庫県のブラインドサッカーチー ムの現役選手としても活躍。
自分の「使いやすい」が皆の「使いやすい」に
1つ目のテーマは「料理」。
それぞれの料理における困りごとについて、セッションをしました。
車いすユーザーである岸田は、キッチンをリフォームしています。
完璧なバリアフリーのキッチンはかなり費用がかかることから、
・車いすが入れるよう、シンク下にスペースをつくる
・キッチンの高さを低めにする
・食器棚の開き戸だと車椅子がぶつかるので引き戸にする
など、できる範囲で工夫をしました。
キッチンの高さを低めにしたことで、車いすユーザーである岸田だけでなく、身長の低い息子と母も使いやすいキッチンになったそうです。
工夫から生まれた自分自身の使いやすさが、知的障害のある息子や高齢の母など「みんなの使いやすさ」に繋がっているんですね。
また、岸田には
「キッチンでは楽しく料理したい」
という想いもあり、100%使いやすいものではなく、少しの不便さはあったとしても、おしゃれで心地のいいキッチンを目指したそうです。
「少しくらいできないことがあっても、それを家族に頼めば、みんなでキッチンに立てるし、コミュニケーションも増える」
岸田家の仲良い様子が浮かんできました。
全盲の原口は大学生以来していなかった料理を、コロナでの外出自粛を機に始めました。
視覚障害者用ではなく、市販の調理器具を工夫して使う原口ですが、「手を使って炒めている」と話したとき、周りから驚きの声が漏れました。
今後はぜひ木べらを使ってほしいと願うばかりです。
レシピはネットで検索し、音声読み上げソフト「スクリーンリーダー」を使用して読んでいるそうです。
初めて作った味噌汁はおいしかったとのこと。
「こういうのがあったらいいな、というものはありますか?」という質問に対して
「忙しいときに使う半調理品(豆腐を入れたら完成する麻婆豆腐の素など)に印や点字がなく、種類を判別ができない」という話がありました。
麻婆豆腐だと思って調理したら、八宝菜だったとか。
判別できるような印や点字があるパッケージが増えてほしいですね。
視点を変えれば、障害者にとって使いやすいものにもなる
2つ目のテーマは「掃除」。
岸田は車いすを押しながら、腕の力だけで掃除機をかけることの難しさをお話ししました。
難しいことはヘルパーさんや家族と協力して行い、モップ掛けなど自分でもできることを毎日しています。
岸田が選んだ、市販のもので使いやすいグッズ
・クイックルワイパー
・カーペットローラー
・柄のついたスポンジ(お風呂掃除に使用)
柄の長いものは体に負担がなく、使いやすいとのことでした。
岸田オススメの家電
・ルンバ
知り合いの車いすユーザーから好評だそう。
岸田は以前人に借りてみたものの、飼っている犬が戦ってしまい、導入できず…
導入できそうな方は、ぜひ導入してみてください!
小学校1年生の頃から寮生活をしている原口。
一番初めに教えられたのが掃除だったことから、同僚も驚くほど綺麗な家を保っています。
掃除機がかけやすいように、家具を壁に沿って設置するなど、部屋の真ん中にものを置かないよう工夫しているそうです。
ただ唯一、手で汚れを確認できないお風呂のカビ取りやトイレ掃除が課題とのこと。
現時点での工夫としては
・定期的な掃除
・トイレに置くだけの洗浄液の設置
これにより、「ここ汚れてるよ」と言われる回数が減ったそうです。
置くだけ洗浄液、便利ですよね。
原口は、
「目が見える人にとって便利なものは、目の見えない人にとっても便利。」と言っていました。
これについて岸田も、「車いすユーザーにとって難しいフィルター掃除」のいらないエアコンを例に挙げ、
「機械の自動化が進めばみんなが便利。」とコメント。
テクノロジーの進化により、できることも、しなくてもいいことも増えるのだなと感じました。
少しの工夫で既存製品でも便利に
3つ目のテーマは「洗濯」。
岸田は、現在使っている縦型洗濯機の使いにくさをお伝えしました。
縦型だと底にある洗濯物に届きません。
また、車いすユーザーである岸田だけでなく高齢の母の手も届きにくく、力を出しながら洗濯物を取り出すことに難しさがあります。
ただ、ドラム式にしたからといって解決するわけではなく、扉が車いすに当たってしまうことで開け閉めに困難が生まれます。
買い替えを検討しているとのことで、次にどのタイプの洗濯機にするのか迷うところですね。
開き戸ではないタイプのドラム式洗濯機があれば解決しそうです。
現時点では、マジックハンドを使うという工夫をしているそう。
初めてのマジックハンドは800円のおもちゃで、なんと10年も使用したとのこと。
おもちゃでも意外と役立つんですね…
そういえば筆者の祖母も使用しています。
マジックハンドおすすめです。
原口は、靴下を脱いだときにネットに入れることで、バラバラになることを防ぐなどの工夫をしており、洗濯に関して困っていることはあまりないそうです。
そして、服のコーディネートに関する工夫についてお話ししました。
工夫の内容
・どの組み合わせでも変じゃないような色合いの服を買う。
・色別で置く場所を決める。
過去、洗濯をする際の課題は、洗剤を入れることでした。
液体だとふたの奥のほうの隙間に投入口があるため、こぼしてしまいます。
しかし最近、ジェルボールと呼ばれている「洗剤と柔軟剤が一つのボールになっているもの」がでたことで、液体洗剤を投入しなくてもいいようになりました。
司会者の「自動投入する最近の洗濯機はどうですかね」というコメントに対し、
「絶対いい!」と食い気味に答える原口でした。
次に買い替えるときは自動投入の洗濯機にするかもしれませんね。楽しみです。
ドラム式のメリットとして、洗濯物同士の絡まりが少ないことが挙げられました。
かごに移しやすいことで、洗濯物の紛失を防げたりと、視覚障害者にとっても便利なのだそうです。
障害のない人の使いやすさも、障害のある人の使いやすさも同じなのですね。
「ほかにも使いやすそうなものがあれば教えてください!」と原口が笑顔で言っていました。
ご連絡お待ちしております♪
多様な方に求められる製品とは?
最後に岸田と原口から、メーカーの開発担当者に向けた意見がありました。
岸田
「完璧を求めない・過剰になりすぎない」ことが大切だと考えます。
誰かのためにだけ作ってしまうと、ほかの誰かが使いにくい場合があります。
より多くの視点を取り入れることで、少し使いづらかったとしても、便利になったと感じる人は増えます。
みんなの視点でつくったほうがユニバーサルデザインは広がるのではないでしょうか。
原口
100点満点を目指さないでください。
視覚障害と言っても、全盲の人もいれば弱視の人もいますし、私のように先天性の人もいれば、中途の人もいます。
人によって障害や求めることは違います。
誰もが8割つかいやすい製品をつくることで、みんなが求める製品ができあがるのではないでしょうか。
ぜひいろんな人のニーズを聞いてほしいです。
まとめ
チャットを利用した質疑応答でたくさんの質問をいただいたりと、オンラインならではの受講しやすさがあったのではないかなと感じております。
今後もセミナーは開催していきますので、ぜひご参加くださいませ。
参加していただいた皆さま、誠にありがとうございました。