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2024年07月29日

エントランスの段差解消【人生100年時代の住宅シリーズ④】

藤原 修

※前回の記事
道から玄関まで【人生100年時代の住宅シリーズ③】

前回はエントランス設計の際に意識すべきことをお伝えしました。今回は具体的な内容をご紹介します。

床と敷地と道路面に段差ができてしまったら

  • 段差解消と言えばスロープをイメージする方が多いと思いますが、パーキンソン病や関節リウマチの方、装具や義肢を使用していて足首が固定されている場合など、人によってはスロープが歩きづらい場合もあります。そのため、階段とスロープの併用が望ましいです。

  • 床仕上げは、階段であれば段鼻※1を色分けして滑り止めを施したり、スロープであれば周囲と異なる色彩にしたり工夫が必要です。夜間は足元が容易に確認できるように、足元灯等を設置するのがオススメです。

    ※1:段鼻(だんばな)…階段の段板(踏み板)の先端部分。滑り止め等を付ける部分。LIXIL「段鼻(だんばな)とは」より引用

    ◆画像は駅の階段ですが、このように段鼻を色分けすることで降りる際に見やすくなります。

    階段_フォトAC

  • 階段とスロープどちらであれ、手すりを両側へを設置するのがよいでしょう。片側への設置も無いよりは良いですが、可能なら両側への設置をお勧めします。人によって右側・左側どちらの手を使用しやすいか異なるためです。

    写真 持ち手が丸い形状の手すり

  • 階段は踏面※2が30cm以上、蹴上※3が16cm以下が目安です。

    ※2:踏面(ふみづら)…平らな部分
    ※3:蹴上(けあげ)…段の高さ

  • スロープの勾配は一般には1/12(120cm進むと10cm上がる)ですが、理想は1/20(200cm進むと10cm上がる)です。
    ※住宅の敷地内において理想の勾配1/20を実現するのは難しい場合がありますが、車いすや自転車、ベビーカーが快適に利用できる勾配としてぜひ知っておきましょう♪
    ※各自治体の条例によって異なる場合があります。
    ※国土交通省の建築設計標準(令和2年度改正版)『第2章 単位空間等の設計』によると以下のように記載されています。
  • ・車椅子使用者が自力で登坂できる勾配は、1/12以下である。
    ・1/12の勾配は国際シンボルマークの設置基準である。
    ・IPC(国際パラリンピック委員会)のアクセシビリティガイドにおける屋外傾斜路の勾配のベストプラクティス(最良慣行、最善事例)は、1/20以下である。
  • スロープの表面は雨や雪などで濡れても滑りにくい、コンクリートの洗い出し仕上げか刷毛引き仕上げ(はけびきしあげ)がオススメです。

  • タイルや石材仕上げの場合は、滑り止め加工を行うか、表面が粗面のものを使用しましょう。光沢のある素材は、見た目は良いですが滑りやすくなります。また、杖先や車いすのキャスターが取られないように、タイルや石の目地幅は5mm以下に抑え、凸凹が無いようにします。

  • 敷石や平板(へいばん)、枕木(まくらぎ)を敷きこむときは、飛び石のように設置しないことをお勧めします。車いすやベビーカーで通る際にガタガタしてしまいますし、歩幅を少し広げて歩く必要があるためです。飛び石仕様にしたい場合は、段差が発生しないよう石の周囲を土で突き固めたり、舗装したりすることが重要です。

    ※枕木は材木の中心から腐るので、見た目は大丈夫でも踏んだ時に穴が開き怪我をする場合があります。枕木を敷きこむときは、本物の鉄道の枕木を使用するとよいでしょう。枕木風の木材もありますが、キノコが生えることがあるため定期的な交換が必要です。

いかがでしたか?次回もお楽しみに!

参考

国土交通省『5 設計基準
※クリックすると、Wordファイルがダウンロードされます

国土交通省『第3章 基本寸法