企業の方向け ナレッジ
2021年09月07日

障害者差別解消法改正をわかりやすく解説。企業に求められる姿勢とは?

ミライロ

2021年5月、障害者差別解消法の一部が改正・可決され、これまで努力義務にとどまっていた民間事業者による合理的配慮の提供が法的義務となりました。

SDGsの推進もさることながら、東京オリンピック・パラリンピックや2025年開催の大阪・関西万博を契機とし、ダイバーシティ&インクルージョンの実現に向けた官民連携の重要性がより一層強まってきています。

そうした社会背景においても今回の障害者差別解消法改正は、障害を理由とする差別の解消を推進させるものとして話題性の高まりを感じました。

一方で、

・障害者差別解消法とはそもそもどのような法律なのか
・改正されたポイントはどこか
・民間事業者に求められることは具体的に何か

などの詳細まで理解するのは簡単ではありません。

今回は、障害者差別解消法の全体像や改正のポイント、民間事業者ができることをわかりやすくお伝えします。

障害者差別解消法とは

障害者差別解消法とは、

すべての国民が、障害の有無に関わらず、相互に人格と個性を尊重し合う共生社会の実現に向け、障害を理由とする差別の解消を推進すること

を目的として、平成25年6月に制定されました

画像 障害者差別解消法の歴史と経緯。 平成18年に障害者権利条約が採択、平成23年に障害者権利条約の一部を、障害者基本法改正に取り込む。平成25年に障害者差別解消法が成立。

◇参照:障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針

そして今回の改正は、平成25年6月に制定された際の附則として、施行後3年を目途に必要な見直し検討を行うとしていたこと。2020年東京パラリンピック競技大会を契機とした、心のバリアフリー等の取り組みが官民を挙げて進められている背景。
などを理由とし、平成31年2月より11回にわたる検討会が進められ、令和3年5月に可決同年6月4日に公布されました。

改正のポイント

改正によって大きく見直されたポイントは、「合理的配慮の不提供の禁止」において、民間事業者の努力義務が法的義務になったことです。

改正以前から、障害者差別解消法では障害を理由とする差別の解消措置として「差別的取扱いの禁止」と「合理的配慮の不提供の禁止」の2つに分類されていました

これらのうち、「差別的取扱いの禁止」に関しては、改正以前より国・地方公共団体等/民間事業者共に法的義務として定められていましたが、「合理的配慮の不提供の禁止」は民間事業者にとって努力義務にとどまっていました。

事業における障害者との関係が分野・業種・場面・状況によって様々であり、求められる配慮の内容・程度も多種多様であることから、民間事業者の合理的配慮の提供については、努力義務とされていましたが、今回見直しや社会背景の追い風を受け、法的義務化されました。

画像 上記説明をイラスト化したもの。

また、この法律は雇用、教育、医療、公共交通など障害者の自立と社会参加に関わるあらゆる分野を対象としています。

雇用分野については「障害者雇用促進法」という別の法律に委ねられており、以前から民間事業者の雇用分野での合理的配慮は法的義務とされていました。

しかし、今回の法改正を受け、合理的配慮の提供範囲が雇用分野を超えて、対社員はもちろんのこと、対お客さまにまで広げて義務化されたことになります。

既に14の都道府県(平成31年4月時点)では、独自の条例によって義務化を制定しているところもありましたが、今回、政府レベルで法律化しました。

合理的配慮の提供とは

合理的配慮の提供とは、上述した通り、

様々な場面で、事業所に対して障害者から何らかの配慮を求められた場合、事業所側は過重な負担がない範囲で、社会的障壁を取り除く配慮を行わなくてはいけない

ということです。

例えば、お店の入口に段差があり、入店できない車いすユーザーに対して簡易スロープを用意したり、聴覚に障害がある方へコミュニケーションツールとして筆談を用いたりすることを指します。

ここでのポイントは、

①障害者から何らかの配慮を求められた場合。②事業者の過重な負担がない範囲。
と書かれていることです。

①障害者から何らかの配慮が求められた場合

障害種別によってニーズが異なり、個別性が強いことから、何らかの配慮を求められた時点を入り口としてできることを増やしていこうという意図があります

②事業者の過重な負担がない範囲

基本方針では、過重な負担について、以下のように述べています。

行政機関等及び事業者において、個別の事案ごとに、以下の要素等を考慮し、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要である。

  • 事務・事業への影響の程度(事務・事業の目的・内容・機能を損なうか否か)
  • 実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約)
  • 費用・負担の程度
  • 事務・事業規模
  • 財政・財務状況

一方で、実際に障害がある方への合理的配慮の具体的な提供方法や過重な負担の範囲の判断は民間事業者に任されているため、円滑に実践していくことを難しいと悩まれている事業者もいます。

実際に、今回の障害者差別解消法見直しの検討に係るヒアリングにおいて、義務化に一定の理解を示す一方、多くの事業者から義務化への不安やトラブル増加への懸念の声が寄せられました

そこで、内閣府は義務化を進めると同時に、支援措置の強化として、相談・紛争解決の制度充実・地域における連携、啓発活動や合理的配慮の事例データベースの充実化を図っていくとしています。

例えば、改正以前からあったものではありますが、民間事業者への支援強化を図っていくものとして以下を提供しています。

画像 政府による民間事業者への支援強化の例。①合理的配慮の事例を「障害種別から探す」「生活の場面から探す」の2種類から検索できるシステム。②各関係省庁管事業分野における対応方針が掲載されたもの。③障害者差別解消支援地域協議会による合理的配慮事例集。

◇参照
内閣府 合理的配慮サーチ
各関係府省庁管事業分野における対応指針
障害者差別解消支援地域協議会による合理的配慮事例集
例)東京都大阪府

法律に違反した場合の罰則について

罰則に関する見直しはまだ内閣府から発表されていませんが、改正前における罰則規定は以下のように定められています。

この法律では、民間事業者などによる違反があった場合に、ただちに罰則を課すことはしていません。ただし、同一の民間事業者によって繰り返し障害のある方の権利利益の侵害に当たるような差別が行われ、自主的な改善が期待できない場合などには、その民間事業者が行う事業を担当している大臣が、民間事業者に対して報告を求めることができることにしており、この求めに対して、虚偽の報告をしたり、報告を怠ったりしたような場合には、罰則(20万円以下の過料)の対象となります。

施行スケジュール

障害者差別解消法改正が成立され、2021年6月4日に公布を受けました。

具体的に明記されていませんが、公布の日から3年以内に政令で定める日まで施行(実際に法律として効力が生じること)すると内閣府は発表しています。

今、民間事業者ができること

合理的配慮の提供が法的義務化された一方で、多くの民間事業者から不安の声も上がっています。

「障害のある方から配慮を求められた場合」に「過重な負担のない範囲」で合理的配慮を行うにはどうしたらいいのかを0から考えることは簡単なことではありません。

考え方の一つとして、2021年3月19日に経済産業省主催で行われた、障害者差別解消法に関する研修の又村あおいさん(全国手をつなぐ育成会連合会の常務理事兼事務局長)のお話をご紹介します。

又村さんは、合理的配慮への考え方で、「できる・できない」の二元論に陥らない「建設的対話」の発想が極めて重要となるとおっしゃっています。

建設的対話とは、障害のある方から配慮を求められた際に、相手と話し合いを行い、相手の希望に応じた対応可能な範囲で代替案を提示することです

例えば、視覚に障害があり、点訳*してほしいと申し出があった場合、点訳できるかできないかを考えると、早急な対応が難しいため、お断りすることが頭に浮かんでしまいます。しかし、「点訳は難しいですが、読み上げ対応の電子データをお送りすることはできますがいかがでしょうか?」といった代替案の提示はできるかもしれません。

このように、障害のある方と民間事業者側ができそうなことを対話によって深掘る姿勢が大切だと又村さんは話されています。

他にもいくつか例を提示されていたので、興味のある方は研修会のyoutube動画をご覧ください。
◇動画はこちら(又村さんのパートは21:20~40:18)

※点訳:普通の文字で書かれた文章を点字で書かれた文章に翻訳すること

何よりも大切なことは「まず知る」ということ

令和元年の障害者白書によると、国内には、約963万人の障害のある方が暮らしています。

画像 障害者963万人。うち、身体障害者436万人(45パーセント)。精神障害者419万人(44パーセント)。知的障碍者108万人(11パーセント)。

◇内閣府「令和元年版 障害者白書

障害のある方のニーズは障害種別や特性によって異なり、全てに応えていくことは難しいと感じる方も多いと思います。また、考え方として先ほど紹介した建設的対話の重要性を理解しつつも、代替案を出すこと自体が難しいと感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

その不安な気持ちは、障害のある方について「まず知る」ことで解決への一歩を踏み出せるかもしれません。

一般社団法人日本ユニバーサルマナー協会が提供する「ユニバーサルマナー検定」では、障害者や高齢者など自分とは違う誰かの視点に立ち、実践に必要な「マインド」と「アクション」を体系的に身につけることができます。

適切な声かけやコミュニケーションを行うために、まずは多様な人々の特徴や心理状況を知ることから始め、その上で、日常生活や接客時における適切なサポート方法を学ぶことが大切です。「まず知る」ことで、障害のある方との建設的対話を生み出す一歩につなげることができます。

※ユニバーサルマナー検定は株式会社ミライロが主催し、一般社団法人日本ユニバーサルマナー協会が認定しています。

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※ユニバーサル検定受講を通して「まずは知る」を実践されている企業のご紹介。
株式会社丸井グループ
イオン株式会社
大和ハウスグループ
株式会社ふくおかフィナンシャルグループ
太陽生命保険株式会社

 

参考URL

内閣府 障害者差別解消法基本方針
内閣府 障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針
内閣府 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律についてのよくあるご質問と回答<国民向け>
経済産業省主催 障害者差別解消法に関するオンライン研修会
障害者政策委員会 障害者差別解消法の施行3年後見直しに関する障害者政策委員会意見
障害者差別解消法改正法の施行に向けたスケジュール
内閣府 障害者権利条約