目次
・はじめに
・聴覚障害者への情報保障に関するアンケート結果
・いま、企業に求められていることは?
はじめに
障害者差別差別解消法の改正により、2024年4月から民間事業者における「不当な差別的取扱いの禁止」や「合理的配慮の不提供の禁止」が義務へと変わりました。
テレビCMに字幕や手話がつき始めたり、パリオリンピックでの開会式のテレビ放映にも手話通訳が付くなど、手話や文字による情報保障は増えてきています。自社においても、従来の手話・文字通訳の依頼に加え、美術館での手話通訳など、これまでになかった場での情報保障も増えています。
※ここで言う聴覚障害者の求める「情報保障」とは、一般的に手話通訳・要約筆記のことです。(最近では、音声を文字変換するアプリなどの使用も増えてきています。)
とはいえ、社会の中で聴覚障害者が情報保障に満足しているかというと、十分とは言えないことも確かです。
「手話や文字通訳がないために、参加を諦めることがある」、「エンタメには情報保障がないことが多く、100%楽しむことができないことがある」と、聞こえない・聞こえにくい人からは、このような意見をよく耳にします。
では、企業として、今後どのように情報保障に取り組んだらよいのでしょうか。
今回は、業界別に各企業に求められる情報保障の対応について、聴覚障害者への情報保障に関するアンケートの結果とともにお伝えします。
聴覚障害者のモニター合計116名に、情報保障に関するアンケートを行いました。
どのような情報保障を整備すれば良いのかお悩みの方や検討されている方は、ぜひご一読ください。
第1回では、聴覚障害者を取り巻く環境に関するアンケート結果をご紹介します。
第2回以降は各企業に求められる対応について、アンケート結果を踏まえて業界別にお届けします。
※第2回記事「聴覚障害者が「水族館・動物園など」に求める情報保障とは?」
聴覚障害者への情報保障に関するアンケート結果
Q普段、コミュニケーション手段として活用しているものをすべて教えてください。
上記は、116名の聴覚障害者へのアンケート結果です(複数回答)。
ここから、多くの聴覚障害者は複数のコミュニケーション方法を場面に応じて使い分けていること、そして補聴器や口話(音声日本語の口の形を読み取る方法)など、複数の方法で情報を取得していることがわかります。
Qあなたの趣味や、興味のあることは何ですか? 何個でも構いませんので教えてください。
以上のように、聴覚障害者の趣味や興味があることは、聴者と変わらず多岐にわたっていることがわかります。しかしながら、それらを楽しむ場へ行くことをあきらめたことがあるかを尋ねてみると、次のような結果がでました。
Qあなたの趣味や、興味のあることは何ですか? 何個でも構いませんので教えてください。
興味のあるセミナーや講演会があったが、主催者に手話通訳があるかどうかの確認や、手話通訳がない場合の説明などの手間を考えると気持ちが萎えてしまった。
博物館のキュレーターのツアーなど、解説があることで楽しめるようなものに行きたかったが、行っても情報保障がないため諦めた。
学会やシンポジウム等の専門的なディスカッションに参加したかったが、情報保障があるかどうかわからず諦めた。
推しのトークイベントや、脱出ゲームなど体験型イベントに文字での情報保障がないので諦めた。
自己啓発や資格取得の際のセミナーや実技に参加したかったが情報保障がないから諦めた。
上記の結果の通り、約7割の方が情報保障が無いから参加を諦めた経験を持っていることがわかります。
聴覚障害者は、ただ単に聞こえないというだけではなく、「情報障害」と「コミュニケーション障害」があると言われています。「情報障害」とは、耳から入ってくる情報をキャッチできないため、聴者よりも情報量が少ないという意味です。これは、あまり社会的に認知されていないように思いますが、耳が聞こえないがゆえに経験できる機会までも奪われてしまっている二次的な障害ケースも多くあるのです。
その場に行くことへの障壁はなくても、他の参加者と同等の楽しみや喜びを得られないために諦めたりためらってしまうことは、主催者の思いが十分に伝えられないとても残念な状況と言えるのではないでしょうか。
Qこれまでに、「興味があって参加したのに、情報保障が無いから楽しめなかった」経験はありますか?
遊園地や舞台鑑賞、観客参加型のイベント、セミナー、出演者の台詞や会話の内容がわからなかった。
アトラクションでスタッフが話をして他の観客が笑ってるのに、自分たちだけわからなかった。
企業主催のイベントで、その企業の商品などの説明を手話か文字通訳を介してじっくり聞きたいし、質問もしたかったができなかった。
映画上映会で手話通訳や文字が付くと事前に通知があったのに、本編以外のカーテンコールやアフタートークではついておらず、残念な思いをした。
スポーツジムやパーソナルジムで、インストラクターのアドバイスを口話を読み取ろうとしたが早口でわからなかった。
スポーツ観戦で、 笛の音が聞こえず、なぜゲームが止まっているのかわからないことがある。また、 試合の実況を聞き取れないので、進捗状況がわからず楽しめなかった。
自由行動のあるツアーに参加したら、案内ガイドがほぼつきっきりで、音声での案内のみということもあり、ほとんどが内容がわからないまま連れ回された感じだけが残った。
手話通訳を頼んだが、依頼日から講演日までの期間が短かったため、通訳が間に合わず、情報保障無しで参加した。やはり、 内容がわからず困ったが、自分は聞こえないのだから仕方がないと思った。
面識の少ない方との食事会で、ずっと愛想笑いや聞こえたふりをしながら数時間その場に滞在しなければならない時は楽しめないを通り越して苦痛に感じた。
オフ会で他の参加者は楽しそうに会話していたが、自分だけ会話の輪に入れなかった。
食品工場見学で筆談で対応してくれたのはよかったが、口頭で説明した内容と比較して情報量が少ないと感じた。
このように、聴者と同じように楽しみたいと思って参加しても、情報保障がないために諦めてしまったり、あったとしても不十分であったため、残念な思いをしたことがある人が約7割いることがわかりました。主催者としては、情報提供をした「つもり」と感じていても、当事者には満足できるものではなかったケースもあります。
いま、企業に求められていることは?
障害者差別解消法の改正や、障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法の施行など、情報弱者といわれる聴覚障害者にとっては追い風となるような法律が整備されてきました。しかし、その実態はどうでしょうか。このアンケートでもわかるように、まだまだ十分とは言えない現状なのです。
企業側が、何もしていないわけではありません。少しずつ、配慮は増えてきています。しかし、配慮をしていても「つもり」になっていて、実際の利用者満足に応えられていないケースもあることがわかってきました。また、合理的配慮をしたいと考えていても、何をどうすればよいのかがわからない。自分たちでできることは?このやり方でいいのだろうか?費用はどのくらいかかるのだろう?などの疑問がありなかなか実施できない企業もあるのではないでしょうか。
聴覚障害当事者の意見をきくことで、いろいろな配慮がもっとできるようになります。各会社ならではの強みを生かして、既存の方法だけでなく新たにできる工夫もあるかもしれません。一度やってお終いではなく、持続可能な方法を繰り返していく中でよりよく提供できるための工夫を一緒にしませんか。
それでは、企業に対してどのような「情報保障」が合理的な配慮となるのでしょうか。第2回以降の記事で、具体的な場面での情報保障について考えてみます。
※第2回記事「聴覚障害者が「水族館・動物園など」に求める情報保障とは?」
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