目次
・はじめに
・聴覚障害者への情報保障に関するアンケート結果
・企業に求められる、情報保障対応とは?
・まとめ
はじめに
情報保障に関する企業の対応について、業界別にお届けします。聴覚障害者へのアンケート結果とともにお伝えしますので、どのように情報保障を取り入れたらよいのかお悩みの方や検討されている方は、ぜひご一読ください。
第8回では趣味・スポーツへの情報保障(例:スポーツ教室・ダンスやヨガの教室・料理や手芸の教室など)ついてご紹介します。
※第1回記事「聴覚障害者を取り巻く状況の変化と、企業に求められること」
※第2回記事「水族館・動物園など」に求める情報保障
※第3回記事「旅行・交通など」に求める情報保障
※第4回記事「美術館・科学館・博物館など」に求める情報保障
※第5回記事「イベントなど」に求める情報保障
※第6回記事「エンタメ分野」に求める情報保障
※第7回記事「テーマパークや遊園地」に求める情報保障
以下は、116名の聴覚障害者に聞いたアンケート結果です。
聴覚障害者への情報保障に関するアンケートの結果
Q聴覚障害者に「趣味の教室やカルチャースクール」への情報保障(例:スポーツ教室・ダンスやヨガの教室・料理や手芸の教室など)があれば、どう思いますか?
上記のように、61%の人が、情報保障があれば嬉しいと答えています。
各市町村には、意思疎通支援事業の中で手話通訳・要約筆記派遣制度がありますが、その利用範囲に制限がある地域もあります。
例えば、
・派遣は、病院や学校などの生活上で必要な場面のみで、趣味やスポーツなどへの派遣は対象外
・冠婚葬祭への参列は三親等以内のみで、友人の式は対象外
・本人の通院には派遣できるが、家族の通院に付き添う際は対象外
このように、本来であれば情報保障が必要な場面であっても、制度上の制限によって通訳派遣が利用されてこなかった現実があります。こうした背景から、「趣味の教室に通う」「スポーツを楽しむ」など、生活の中で当たり前の活動が、聞こえない人にとって馴染みのないものとなっていることもあるのではと考えます。
Q聴覚障害者に「スポーツ観戦」への情報保障(例:試合の実況・試合中のイベント・ヒーローインタビューなど)があれば、どう思いますか?
上記のように、42%の人が、情報保障があれば嬉しいと答えています。一方で、約30%の人が関心がないと答えています。
しかし、これは本当に「関心がない」のでしょうか。かつて、スポーツ観戦などの娯楽の場面では、情報保障がほとんどなかったため、興味を持つきっかけがなかった人が多かった可能性もあると考えられます。
実際に、聴覚障害のある方の中には、「聞こえる人と一緒にスポーツ観戦をしていて、実況や解説でいろいろな話がされていると知って驚いた」と話す方も少なくありません。
たとえば、野球中継では、息づまるピッチャーとバッターの心理戦や、次に投げられる球種の予測などが詳しく語られます。マラソンや駅伝では、選手一人ひとりの個性やこれまでのエピソードが紹介され、観戦の臨場感が高まります。バレーボールなどの球技でも、表面的にはミスですが、「ここは積極的にいくところなので、ミスしてもいい場面です」や「ここは慎重にいくところなので、ミスはだめですね」など試合の流れを考えてのコメントもあります。こうした言葉による情報は、観戦の楽しさを何倍にも広げてくれるだけでなく、選手のファンになるきっかけとなったり、自分が競技に取り組む際の参考になったりします。
Qどのような情報保障があると嬉しいと思いますか?
趣味の教室・カルチャースクールなど
ヨガを習っていたが、手話が分かる先生でないので呼吸を合わせるのが難しい。
ヨガ、料理教室、スイミング、ベビースイミングも情報保障があれば良かったなと思う。もしあれば仲間ができて孤立しがちな産後を、楽しく過ごせたと思う。
競技審判員をしているが、大会の朝礼や審判員の打ち合わせなどには(公的派遣が難しいので)音声文字変換認識で情報を得てる。だが、誤字が多く正しい情報が得られないので正しくわかる情報保障があればうれしい。
昔スイミングに入ろうとしたら聞こえない人はダメと断られた。おそらく有事に伝わらないからだと思ったが残念だった。
毎回筆談だと面倒くさい。講師が話す内容を手話で表すだけでなく、こちらの手話を読み取りもできると相互に話が出来て楽しくなる。
オンライン(eラーニング)のパソコンスキルの研修を受けたことがあるが、字幕がないものだったので、講師の話している内容が全く分からなかった。
ジムに通っているが、聞こえないので先生の言うことはほとんどわからないまま、みんなの真似をして体を動かしている。先生の言うことがわかれば、もっと効率的に体を動かせるのだと思う。
スポーツ観戦など
ヒーローインタビュー、ファン感謝デー、トークショー、記者会見の情報保障があればうれしい。
テレビの試合実況インタビュー副音声も知りたい
スポーツ観戦で休憩時にたまにミニゲームやお知らせがあるらしい。大型ビジョンに文字情報か手話通訳を映して欲しい
テレビなどで実況中継の文字放送があるが、タイムラグがあり「今のプレー」がどれかわからなくなることがある。タイムリーに文字情報が出てくれるとうれしい。
趣味の教室やスポーツ観戦において求められる、情報保障対応とは?
あるデフアスリート(聴覚障害のあるアスリート)のエピソードをご紹介します。
この選手は、日々トレーニングに励んでいましたが、なかなか思うように成果が出ませんでした。トレーニングの方法は、聞こえるコーチから送られてくる動画を見て、それを真似して実践するというものでした。
しかし、後になって手話通訳を介して詳しく説明を受けたところ、筋トレの際に意識すべき「部位」がズレていたことがわかりました。同じような動きをしているつもりでも、実際には鍛えるべき背面の筋肉ではなく、前面の筋肉に負荷がかかるトレーニングになってしまっていたのです。
聴覚障害のある方の中には、視覚を通じて情報を受け取る「視覚言語(目で見る言葉)」に慣れており、観察力に優れている方も多くいらっしゃいます。
しかし、スポーツのように身体の使い方や細かいニュアンスが問われる場面では、「見るだけ」では習得できない場面もあります。見よう見まねだけでは理解しきれない部分、効率的に習得するために必要な「言語による理解」が大切になるのです。同じことはスポーツ観戦にも言えます。実況や解説を通して、選手の見えない工夫や努力、戦術の裏側を知ることができれば、競技の奥深さを感じることができ、観戦の楽しさも格段に広がるのではないでしょうか。
まずは、自社でできる工夫について
現場でのアナウンスは、できるだけ文字に書いたり、大型スクリーンなどがあれば表示することも併せて行う。
指導や説明の際は、事前にタブレットや文字で説明を行ってから実技に移る。(※動きと説明を同時に視認することは困難なため、情報は段階的に一つずつ提示することが重要)
ただ、上記の対応のみで、聴覚障害者が満足できるかというと十分ではないかと思います。聴者と同じように楽しんでいただくための方法をご紹介させていただきます。
趣味の教室やカルチャースクールで開催される際は、事前に希望を募り、手話通訳または文字通訳の手配を行う。
インストラクターや講師が話す内容を、スクリーンや手元のタブレットに字幕表示されるシステムを導入する。
インストラクターや会場スタッフなどへの手話講習会の開催
球場で生観戦をしていても、選手のインタビューは大型スクリーンなどに文字で出したり、手話通訳を映す。
テレビの副音声にも字幕をつける(バラエティ番組やスポーツ中継には字幕は基本ついていないため)
まとめ
手話通訳を付けて習い事に通うことは、まだ一般的とは言えません。しかし、聴覚障害者も、聞こえる人と同様に、さまざまことを学習したい、もっと上手くなりたいという気持ちはあります。情報保障を整備することにより、情報を同じように得ることで、着実に上達される方もおられることでしょう。
また、最近では、IT技術の進歩により、音声を文字化するアプリなども普及してきましたが、誤変換や雑音の影響で正確に伝わらないことも多く、完璧とは言えません。けれども、だからといって、聴覚障害のある方に「完璧にできるようになるまで待ってください」とは言えません。今、できることをお互いに少しずつ試しながら、「どうすればもっと伝わるか」「どうすれば一緒に楽しめるか」を一緒に考えていくことが、何より大切なのではないでしょうか。トライ&エラーを繰り返しながら、工夫し、あきらめずに続けることが、「共に学び、共に楽しむ」未来につながる一歩になるのではないでしょうか。
今回のアンケートの結果からもわかるように、聴覚障害者のお客さまからの情報保障へのニーズは高く、2024年4月の改正障害者差別解消法施行をふまえて各企業から、現地または遠隔による手話通訳や文字通訳のご依頼、業務上使える手話講座のご相談をいただく機会が増えています。
ミライロ・コネクトでは引き続き、さまざまな場面において手話でコミュニケーションがとれる社会を目指します。趣味やスポーツなどでの手話や文字による情報保障をご希望の方はどうぞお気軽にご相談ください。
お問い合わせ先
ミライロ・コネクト事業
メール:connect@mirairo.co.jp